【電力】平成24年 問4|ウラン235の質量欠損による核分裂エネルギーと同等の熱量を得るための重油使用量の計算問題
\( 0.01 \) [kg] のウラン \( 235 \) が核分裂するときに \( 0.09 \) [%] の質量欠損が生じるとする。
これにより発生するエネルギーと同じだけの熱を得るのに必要な重油の量 [l] の値として,最も近いものを次の (1) ~ (5) のうちから一つ選べ。
ただし,重油の発熱量は \( 43\,000 \) [kJ/l] とする。
合格への方程式
E=mc²:エネルギーと質量の等価性
アインシュタインの特殊相対性理論の中で最も有名な式の一つである「E=mc²」は、エネルギーと質量が等価であることを示しています。
この式によれば、質量 m [kg] を持つ物体は、静止エネルギーとして
\[ \begin{aligned} E = mc^2 \end{aligned} \]
のエネルギーを持っています。ここで c は光速(約3×10⁸ m/s)です。
また、質量欠損 Δm [kg] があった場合、放出されるエネルギー E [J] は次のように表されます:
\[ \begin{aligned} E = \Delta m \cdot c^2 \end{aligned} \]
この式の重要性:
- 小さな質量からでも膨大なエネルギーが得られることを示している
- 質量とエネルギーは互いに変換可能であることを意味する
- 宇宙の根本的な法則の一つである
公式の物理的意味
「E=mc²」という式は非常にシンプルですが、その意味するところは深遠です:
例えば、1グラム(0.001 kg)の物質が完全にエネルギーに変換されると:
\[ \begin{aligned} E &= 0.001 \text{ kg} \times (3 \times 10^8 \text{ m/s})^2 \\ &= 0.001 \times 9 \times 10^{16} \text{ J} \\ &= 9 \times 10^{13} \text{ J} \end{aligned} \]
これは広島に投下された原子爆弾のエネルギーと同等以上です。たった1グラムからです!
この式は、物質がエネルギーの「凝縮形態」であることを示しています。日常生活では物質とエネルギーは別物に見えますが、実は同じコインの裏表なのです。
光速の二乗(c²)が式に含まれているため、わずかな質量でも膨大なエネルギーに相当します。これは原子力発電や核兵器の原理的基礎となっています。
実生活での応用例
質量エネルギー等価性の原理は、現代社会のさまざまな技術に応用されています:
応用分野 | 質量エネルギー変換の利用方法 |
---|---|
原子力発電 | ウランの核分裂時の質量欠損からエネルギーを得る |
PET検査 | 陽電子と電子の対消滅により発生するガンマ線を検出 |
太陽エネルギー | 太陽内部での核融合による質量欠損がエネルギー源 |
宇宙論 | 星の形成過程や超新星爆発のメカニズムの説明 |
この原理は核兵器の開発にも利用されました。科学的発見は常に責任ある使用が求められます。
歴史的背景と発見の経緯
アインシュタインがこの有名な式を導き出した過程は、物理学の歴史における重要な転換点でした:
- 1905年、アインシュタインは特殊相対性理論に関する論文を発表
- 当初は「物体が放出するエネルギーLは物体の質量の減少Δmに比例する」と述べた
- 比例定数が光速の二乗(c²)であることを導き出した
- 後に完全な形式「E=mc²」として提示された
この発見は、当時の物理学者たちにさえも革命的でした。質量とエネルギーが別々の保存則を持つという19世紀までの考えを覆し、統一された質量エネルギー保存則を示しました。
興味深いことに、アインシュタインはこの式の核兵器への応用可能性を初めから認識していたわけではありません。後年、彼はルーズベルト大統領への手紙で核兵器開発の可能性について警告しましたが、それは自身の発見から30年以上経った後のことでした。
計算例と問題
質量エネルギー等価性を使った計算例を見てみましょう:
例題1:
核分裂反応において、ウラン235の原子核1個が分裂すると約3.2×10-11 Jのエネルギーが放出されます。この反応による質量欠損はいくらですか?
解答:
\[ \begin{aligned} \Delta m &= \frac{E}{c^2} \\ &= \frac{3.2 \times 10^{-11} \text{ J}}{(3 \times 10^8 \text{ m/s})^2} \\ &= \frac{3.2 \times 10^{-11}}{9 \times 10^{16}} \text{ kg} \\ &≈ 3.56 \times 10^{-28} \text{ kg} \end{aligned} \]
この質量はウランの原子質量のわずか約0.1%程度ですが、放出されるエネルギーは化学反応の数百万倍にもなります。
例題2:
太陽は毎秒約4.3×109 kgの質量を失っています。これは太陽が毎秒放出しているエネルギーにどのくらい相当しますか?
解答:
\[ \begin{aligned} E &= \Delta m \cdot c^2 \\ &= 4.3 \times 10^9 \text{ kg} \times (3 \times 10^8 \text{ m/s})^2 \\ &= 4.3 \times 10^9 \times 9 \times 10^{16} \text{ J} \\ &≈ 3.87 \times 10^{26} \text{ J/秒} \\ &= 3.87 \times 10^{26} \text{ W(ワット)} \end{aligned} \]
この途方もないエネルギーが太陽光として放射され、地球上の生命を支えています。
🔍 ワンポイントアドバイス: E=mc²の式を覚えるだけでなく、その物理的意味を理解することが重要です。小さな質量が膨大なエネルギーに相当するという概念は、直感に反するかもしれませんが、現代物理学の根幹をなしています。また、計算では単位に注意しましょう。質量はkg、光速はm/s、そしてエネルギーはJで表します。
まずはウランの質量欠損からエネルギーを計算するんやけど、アインシュタインの有名な式知ってるか? エネルギーと質量の関係式や!
はい、先生!エネルギーと質量の関係式は E = mc² ですね。質量とエネルギーは等価で、質量が欠損するとそれに相当するエネルギーが発生します。
そのとおり!この問題では、ウラン235の質量欠損Δmは9×10⁻⁶ kgやな。これを使ってエネルギーを計算してみるで!
はい、アインシュタインの式 E = mc² に数値を代入します。
質量欠損 Δm = 9×10⁻⁶ kg
光速 c = 3.0×10⁸ m/s
\[ \begin{aligned} E &= \Delta m \cdot c^2 \\ &= 9 \times 10^{-6} \times (3.0 \times 10^8)^2 \\ &= 9 \times 10^{-6} \times 9.0 \times 10^{16} \\ &= 8.1 \times 10^{11} \ \mathrm{[J]} \\ &= 8.1 \times 10^8 \ \mathrm{[kJ]} \end{aligned} \]ウラン235の質量欠損から発生するエネルギーは8.1×10⁸ kJとなります。
よう計算できたな!次は重油のエネルギーについて考えるで。問題文によると、重油1kgあたりどれくらいのエネルギーが発生するって書いてあった?
問題文によれば、重油から発生するエネルギーEは、重油の使用量Vₕ [kg]として、
\[ E = 43000 \cdot V_h \ \mathrm{[kJ]} \]つまり、重油1kgあたり43000kJのエネルギーが発生すると書かれています。
せやな!じゃあ、ウラン235が発生するエネルギー8.1×10⁸ kJと同じエネルギーを得るために必要な重油の量を計算してみよか!
はい、エネルギーが等しいという条件から重油の必要量を求めます。
\[ \begin{aligned} 8.1 \times 10^8 &= 43000 \cdot V_h \\ V_h &= \frac{8.1 \times 10^8}{43000} \\ &= \frac{8.1 \times 10^8}{4.3 \times 10^4} \\ &= 1.88 \times 10^4 \\ &\approx 18837 \ \mathrm{[kg]} \end{aligned} \]したがって、約18837kgの重油が必要になります。
ええね!でも問題の答えは19000リットルになってるから、kg単位からリットル単位に変換せなあかんのやろうな。問題では重油の密度は1kg/Lと仮定してるみたいやな。だから...?
はい、重油の密度を1kg/Lと仮定すると、質量と体積が数値的に等しくなります。
重油18837kgは、そのまま18837Lと考えられます。
問題の答えとして、これを有効数字2桁で丸めると19000Lとなるので、選択肢(4)が正解になります。
よく理解できとるやん!これでウラン235のわずか9×10⁻⁶kgの質量欠損から生じるエネルギーが、重油19000リットル相当ってことがわかったな。原子力エネルギーの凄さがわかるやろ?最後にもう一度この計算の流れをおさらいしとこか。
はい、先生!計算の流れをおさらいします:
1. ウラン235の質量欠損Δm = 9×10⁻⁶kgから、アインシュタインの関係式E = mc²を使ってエネルギーを計算
2. 計算結果:E = 8.1×10¹¹J = 8.1×10⁸kJ
3. 重油1kgあたり43000kJのエネルギーを発生するという条件から、同等のエネルギーを得るために必要な重油量を計算
4. 計算結果:Vₕ = 8.1×10⁸÷43000 ≈ 18837kg
5. 重油の密度を1kg/Lとすると、体積は約18837L
6. 有効数字2桁で丸めると19000Lとなり、答えは(4)
これにより、ウラン235のごくわずかな質量から、大量の重油と同等のエネルギーが得られることがわかりました。原子力エネルギーの密度の高さが理解できました!
解説まとめ
ウラン235の質量欠損 \( \Delta m \ \mathrm{[kg]} \) は、以下のように求められます。
\begin{aligned} \Delta m &= 0.01 \times \frac{0.09}{100} \\\\ &= 9 \times 10^{-6} \ \mathrm{[kg]} \end{aligned}
したがって、ワンポイント解説「1.エネルギーと質量の関係式」より、ウラン235が発生するエネルギー \( E \) は次のようになります。
\begin{aligned} E &= \Delta m \, c^{2} \\\\ &= 9 \times 10^{-6} \times \left( 3.0 \times 10^{8} \right)^2 \\\\ &= 8.1 \times 10^{11} \ \mathrm{[J]} \quad \rightarrow \quad 8.1 \times 10^{8} \ \mathrm{[kJ]} \end{aligned}
一方、重油火力で発生するエネルギー \( E \) は、使用する重油の使用量を \( V_{\mathrm{h}} \ \mathrm{[kg]} \) とすると、
\[ E = 43000 \, V_{\mathrm{h}} \ \mathrm{[kJ]} \]
であるため、ウラン235が質量欠損により発生するエネルギーと等しい熱量を得るのに必要な重油の量は、
\begin{aligned} 8.1 \times 10^{8} &= 43000 \, V_{\mathrm{h}} \\\\ V_{\mathrm{h}} &= \frac{8.1 \times 10^{8}}{43000} \\\\ &\approx 18837 \quad \rightarrow \quad 19000 \ \mathrm{[l]} \end{aligned}
と求められます。