【第三種電気主任技術者試験】火力発電所の基礎と計算問題 - 合格対策学習ガイド
1. イントロダクション
火力発電は、化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)やバイオマス燃料を燃焼させて発生する熱エネルギーを利用して電気を生産する発電方式です。世界中の電力供給の主要な部分を担っており、日本においても発電電力量の約7割を火力発電が占めています。
火力発電の特徴
- 短期間で建設可能(水力・原子力と比較して)
- 設備費が比較的安価
- 出力調整が容易で負荷追従性に優れる
- 燃料供給が安定している限り、安定した発電が可能
- 化石燃料を使用するため、CO₂などの温室効果ガスを排出する
日常生活や産業での応用例
火力発電所は電力供給の基幹を担い、家庭・産業用の電力を安定的に供給しています。近年は環境負荷低減のための技術革新が進み、高効率化やCO₂排出削減に向けた取り組みが活発化しています。また、再生可能エネルギーの変動を補完する調整電源としての役割も重要です。
第三種電気主任技術者試験における位置づけ
第三種電気主任技術者試験では、火力発電所に関する基本的な知識と計算問題が出題されます。特に、発電の原理、主要設備の構成と機能、熱効率の計算、燃料消費量の算出などが重要な出題分野となっています。これらの内容は「電力」科目の重要な一部を構成しています。
学習の進め方
本学習ページでは、まず火力発電の基本原理とランキンサイクルについて学習し、次に主要設備の構成と機能を理解します。さらに、燃料の種類と特性、熱効率とその改善手法、環境対策装置、ボイラーの種類、運用と制御について学び、最後に計算問題の解き方を習得します。各セクションの理解を深めるために、図解や例題を活用し、最後に演習問題で総合的な理解度を確認しましょう。
2. 火力発電の基本原理
2.1 エネルギー変換の流れ
火力発電は、燃料の持つ化学エネルギーを段階的に変換して電気エネルギーを得るプロセスです。その変換の流れは以下のとおりです:
- 化学エネルギー → 熱エネルギー:燃料がボイラーで燃焼し、熱エネルギーを発生させます。
- 熱エネルギー → 蒸気の熱エネルギー:発生した熱でボイラー内の水を加熱し、高温高圧の蒸気を生成します。
- 蒸気の熱エネルギー → 機械的エネルギー:高温高圧の蒸気が蒸気タービンを回転させ、機械的エネルギーに変換されます。
- 機械的エネルギー → 電気エネルギー:蒸気タービンと連結された発電機が回転し、電気エネルギーに変換されます。
エネルギー変換の各段階では損失が発生するため、最終的な電気エネルギーへの変換効率(熱効率)は通常30〜45%程度となります。残りのエネルギーは主に排熱として大気や冷却水に放出されます。
2.2 ランキンサイクル
火力発電所の基本サイクルは「ランキンサイクル」と呼ばれる熱力学的なサイクルに基づいています。これは水と蒸気を作動流体として利用する閉サイクルです。
2.2.1 ランキンサイクルの基本構成
ランキンサイクルは以下の4つの基本プロセスで構成されています:
- 断熱膨張(タービン):高温高圧の蒸気がタービン内で断熱膨張し、機械的仕事を行います。
- 等圧冷却(復水器):タービンを出た低圧蒸気が復水器内で冷却され、水(復水)に戻ります。
- 断熱圧縮(ポンプ):復水がポンプによって加圧され、ボイラーへ送られます。
- 等圧加熱(ボイラー):加圧された水がボイラー内で加熱され、高温高圧の蒸気になります。
2.2.2 T-s線図(温度-エントロピー線図)
ランキンサイクルはT-s線図上で以下のように表されます:
T-s線図上でのプロセスは以下のとおりです:
- 1→2:タービンでの断熱膨張(エントロピー一定での膨張)
- 2→3:復水器での等圧冷却(圧力一定での冷却)
- 3→4:ポンプでの断熱圧縮(エントロピー一定での圧縮)
- 4→1:ボイラーでの等圧加熱(圧力一定での加熱)
2.2.3 実際のランキンサイクルとの違い
理想的なランキンサイクルでは、タービンとポンプでの膨張・圧縮は断熱(エントロピー一定)と仮定されますが、実際にはエントロピーの増加(不可逆性)が生じます。また、配管や機器での圧力損失、熱損失も存在します。これらの損失要因を考慮して、実際の火力発電所では熱効率向上のための様々な改良が施されています。
ランキンサイクルの熱効率を向上させるための主な方法:
- 蒸気の温度・圧力の上昇(超臨界・超々臨界圧条件)
- 再熱サイクルの採用
- 再生サイクル(給水加熱)の採用
- コンバインドサイクルの採用
これらの改良については、後の「熱効率・サイクルの理解」セクションで詳しく説明します。
3. 主要構成設備とその機能
3.1 ボイラー
ボイラーは燃料を燃焼させて発生する熱エネルギーを利用し、水を加熱して高温高圧の蒸気を生成する設備です。現代の大型火力発電所では、効率的な熱交換と安全性を両立した複雑な構造を持っています。
3.1.1 ボイラーの主要構成要素
- 燃焼室(炉)
燃料が空気と混合して燃焼する空間です。石炭火力では微粉炭バーナー、油・ガス火力ではオイルバーナーやガスバーナーが使用されます。燃焼温度は1300〜1500℃程度に達します。
- 蒸発器(水管)
燃焼熱によって水を蒸発させる部分です。水管と呼ばれる多数の管の中を水が流れ、管の外側から燃焼ガスの熱を受けて蒸発します。発生した蒸気は蒸気ドラムに集められます。
- 過熱器
飽和蒸気をさらに加熱して過熱蒸気にする装置です。過熱蒸気はタービン翼の侵食を防ぎ、熱効率を向上させます。一般的な過熱温度は500〜600℃程度です。
- 再熱器
高圧タービンを通過した蒸気を再び加熱して中圧タービンに送る装置です。再熱によってサイクル効率が向上し、タービン内での水分による損失や侵食を防ぎます。
- 節炭器(エコノマイザ)
ボイラーに供給される給水を予熱する装置です。排ガスの熱を回収して熱効率を向上させます。
- 空気予熱器
燃焼用空気を予熱する装置です。排ガスの熱を利用して空気を温めることで、燃焼効率を向上させます。
ボイラーの重要パラメータ:
- 蒸発量:単位時間あたりに生成される蒸気量 [t/h]
- 蒸気圧力:発生する蒸気の圧力 [MPa]
- 蒸気温度:過熱器出口での蒸気温度 [℃]
- ボイラー効率:燃料の持つ熱エネルギーのうち、蒸気に変換されるエネルギーの割合 [%]
3.1.2 ボイラーの熱バランス
ボイラーでは、投入された燃料の熱量が以下のように配分されます:
- 有効熱量:水から蒸気への変換に利用される熱量(約85〜90%)
- 排ガス損失:排ガスとともに排出される熱量(約5〜10%)
- 放射損失:ボイラー外壁からの放熱による損失(約1〜2%)
- 未燃損失:不完全燃焼や灰中の未燃分による損失(約1〜3%)
3.2 蒸気タービン
蒸気タービンは、高温高圧の蒸気の熱エネルギーを機械的回転エネルギーに変換する装置です。蒸気が噴流となってタービン翼に当たり、回転軸を回転させます。
3.2.1 蒸気タービンの基本構造
蒸気タービンの主要部品:
- ケーシング:タービン内部を覆う外殻
- ロータ(回転軸):動翼を取り付けた回転部分
- 動翼:蒸気の力を受けて回転する翼
- 静翼:蒸気の流れを制御する固定翼
- ノズル:蒸気を加速して動翼に当てる装置
- 軸受:ロータを支持する部品
- シール:蒸気漏れを防止する装置
3.2.2 多段式タービンと圧力段階
現代の火力発電所では、蒸気の圧力差を効率的に利用するために、複数の圧力段階を持つ多段式タービンが採用されています:
- 高圧タービン(HP):最初に蒸気が入る部分で、蒸気圧力は約15〜25MPa程度。
- 中圧タービン(IP):高圧タービンを出た蒸気が再熱器で再加熱された後に入る部分。
- 低圧タービン(LP):最終段階で、蒸気が復水器に向かう前の部分。翼長が最も長く、大きな体積の蒸気を処理します。
3.2.3 抽気再熱式タービン
熱効率向上のため、タービンの途中から蒸気の一部を抽出(抽気)して給水加熱に利用したり、高圧タービンを出た蒸気を再び加熱(再熱)して中圧タービンに導入する方式が採用されています。
蒸気タービンの効率向上のポイント:
- 入口蒸気の高温高圧化(材料技術の向上が必要)
- 多段化による圧力降下の効率的利用
- 抽気による給水加熱(フィードバック効果)
- 再熱による湿り蒸気の減少と効率向上
- シール技術の向上による蒸気漏れの低減
- 翼形状の最適化による効率向上
3.3 発電機
発電機は、タービンの機械的回転エネルギーを電気エネルギーに変換する装置です。火力発電所では主に同期発電機が使用されます。
3.3.1 同期発電機の基本構造
同期発電機の主要部品:
- 回転子(界磁)
蒸気タービンと連結され回転する部分です。電磁石(界磁極)が配置され、直流電流(界磁電流)を流すことで磁界を発生させます。この磁界が回転することで、固定子に交流電圧が誘導されます。
- 固定子(電機子)
回転子の周りを囲む固定部分です。内側には三相の電機子巻線が配置されており、回転子の磁界の変化によって交流電圧が誘導されます。
- 冷却システム
発電機内部で発生する熱を除去するためのシステムです。大型発電機では水素ガス冷却や水冷却が採用されています。
- 励磁装置
回転子の電磁石に供給する直流電流を制御する装置です。出力電圧の調整に使用されます。
3.3.2 発電原理
同期発電機の発電原理は電磁誘導の法則に基づいています:
- 回転子(界磁)に直流電流を流して磁界を発生させます。
- タービンの力で回転子を回転させると、回転磁界が生じます。
- 回転磁界が固定子(電機子)の巻線を横切ると、電磁誘導により交流電圧が発生します。
- 固定子巻線が三相構造になっているため、120度の位相差を持つ三相交流電力が得られます。
同期発電機の特徴:
- 回転速度と発電周波数は同期関係にある(50Hz系統では3000rpm、60Hz系統では3600rpm)
- 界磁電流の調整により出力電圧を制御できる
- 無効電力の制御が可能(電力系統の電圧安定化に貢献)
- 大型化が容易で高効率(98%以上)である
3.4 復水器・冷却装置
復水器は、タービンを出た低圧蒸気を冷却して水(復水)に戻す装置です。復水は再び給水系統を通してボイラーに送られ、サイクルが継続します。
3.4.1 復水器の構造と機能
復水器の主要部品:
- 胴体:復水器の外殻
- 冷却管群:内部を冷却水が流れる多数の管
- 管板:冷却管を固定する板
- ホットウェル:復水を貯める部分
- 空気抽出装置:非凝縮性ガスを除去する装置
復水器の動作原理:
- タービンを出た低圧蒸気が復水器内に入ります。
- 冷却管の外側を蒸気が流れ、内側を流れる冷却水により冷却されます。
- 冷却された蒸気は水滴となり、ホットウェルに集められます。
- 集められた復水は復水ポンプにより給水系統へ送られます。
3.4.2 冷却装置の種類
復水器で使用される冷却水を冷却するための装置には、以下の種類があります:
- 海水・河川水直接冷却方式
海水や河川水を直接冷却水として使用し、一度通した後に排水する方式。シンプルですが、環境への熱影響があります。
- 冷却塔方式
冷却水を循環使用し、冷却塔で大気に熱を放出する方式。更に以下の種類があります:
- 自然通風冷却塔:煙突効果で自然に空気を循環させる大型の塔
- 機械通風冷却塔:ファンで強制的に空気を循環させる装置
- 人工池方式
大規模な人工池を作り、そこで冷却水を冷却して循環使用する方式。
復水器の性能を表す指標:
- 真空度:復水器内の圧力の低さを表す指標(一般的に700mmHg以上)
- ターミナル温度差(TTD):出口冷却水温度と復水温度の差
- 冷却水温度上昇:入口と出口の冷却水温度差
3.5 給水装置
給水装置は、復水をボイラーへ送り込むための設備で、給水加熱器(ヒーター)、脱気器、給水ポンプなどから構成されます。
3.5.1 給水加熱器
給水加熱器は、タービンから抽気した蒸気を利用して給水を予熱する熱交換器です。主に以下の2種類があります:
- 低圧給水加熱器:復水ポンプの前または後に設置され、低圧タービンから抽気した蒸気で給水を加熱します。
- 高圧給水加熱器:給水ポンプの後に設置され、高圧または中圧タービンから抽気した蒸気で給水を加熱します。
脱気器は以下の機能を持っています:
- 溶存酸素・ガスの除去:給水中の溶存酸素や二酸化炭素を除去し、ボイラー配管の腐食を防止します。
- 給水の加熱:タービンからの抽気蒸気を利用して給水を加熱します。
- 給水の貯留:給水タンクとしての機能もあります。
脱気の原理:
- 水中のガス溶解度は温度上昇により低下します(ヘンリーの法則)。
- 給水を加熱して飽和温度近くまで上げることで、溶存ガスの分離を促進します。
- 給水を薄く広げて蒸気と十分に接触させ、溶存ガスを効率的に除去します。
- 分離したガスは脱気器上部から系外に排出されます。
3.5.3 給水ポンプ
給水ポンプは、脱気器から給水をボイラーに送り込むための高圧ポンプです。大型火力発電所では多段遠心ポンプが使用されます。
給水ポンプの特徴:
- ボイラー圧力より高い吐出圧力を持つ(超臨界圧ボイラーでは25MPa以上)
- 大容量で高効率(効率85〜90%程度)
- 連続運転に耐える高い信頼性
- 可変速駆動方式を採用して部分負荷時の効率向上を図る
給水系統の重要性:
給水系統はボイラー給水の水質維持、熱効率向上、安全性確保において極めて重要な役割を果たします。特に給水中の不純物(溶存酸素や硬度成分など)はボイラーの腐食やスケール形成の原因となるため、厳格な水質管理が必要です。また、給水予熱によるプラント効率向上も重要な機能です。
4. 燃料の種類と特性
火力発電所で使用される主要な燃料には、石炭、重油、軽油、LNG(液化天然ガス)、バイオマスなどがあります。それぞれ特性が異なり、発電コスト、環境負荷、運用特性に影響を与えます。
4.1 主要燃料の特性比較
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燃料の種類 |
発熱量 |
主成分 |
環境負荷 |
長所 |
短所 |
石炭 |
20〜30 MJ/kg |
炭素(C)70〜90% |
高(CO₂、SOx、NOx、ばいじん) |
・資源量が豊富 ・価格が安定 ・備蓄が容易 |
・環境負荷が大きい ・灰処理が必要 ・起動に時間がかかる |
重油 |
約42 MJ/kg |
炭化水素(長鎖) |
中〜高(CO₂、SOx、NOx) |
・取扱いが容易 ・既存設備の適応性 |
・価格変動 ・硫黄分が多い |
軽油 |
約43 MJ/kg |
炭化水素(中鎖) |
中(CO₂、NOx) |
・取扱いが容易 ・燃焼性が良好 |
・価格が高い ・主に非常用 |
LNG |
約50 MJ/kg |
メタン(CH₄)主体 |
低(CO₂のみ、他はごく少量) |
・環境負荷が最小 ・燃焼効率が高い ・設備がコンパクト |
・貯蔵に特殊設備が必要 ・価格変動 ・供給源が限られる |
バイオマス |
10〜20 MJ/kg |
セルロース、リグニンなど |
カーボンニュートラル |
・再生可能エネルギー ・CO₂排出削減 |
・発熱量が低い ・安定供給が難しい ・前処理が必要 |
4.2 各燃料の詳細
4.2.1 石炭
石炭は世界中で最も広く使われている火力発電燃料です。
石炭の種類:
- 瀝青炭:最も一般的な発電用石炭。固定炭素50〜85%、発熱量約25〜30 MJ/kg
- 亜瀝青炭:瀝青炭より若い石炭。固定炭素40〜50%、発熱量約20〜25 MJ/kg
- 褐炭:若い石炭で水分が多い。固定炭素25〜40%、発熱量約15〜20 MJ/kg
- 無煙炭:最も古い石炭。固定炭素85%以上、発熱量約30〜35 MJ/kg
石炭の燃焼方式:
- 微粉炭燃焼:石炭を粉砕して吹き込み燃焼させる方式(最も一般的)
- 流動床燃焼:砂などの床材と石炭を流動させながら燃焼させる方式
- 石炭ガス化複合発電(IGCC):石炭をガス化してガスタービンと蒸気タービンで発電する方式
4.2.2 重油・軽油
石油系燃料は主に石油精製の過程で得られる製品です。
重油の種類:
- A重油:最も軽質の重油。硫黄分0.5%以下
- B重油:中間的性状の重油
- C重油:最も粘度が高く、硫黄分を多く含む重油。発電用には脱硫が必要
軽油は主に非常用発電機や起動用燃料として使用されます。
4.2.3 LNG(液化天然ガス)
LNGは天然ガスを-162℃まで冷却して液化したものです。環境負荷が低く、コンバインドサイクル発電に適しています。
LNGの特徴:
- 主成分はメタン(CH₄)で、燃焼時の排出物はCO₂と水蒸気が主体
- 硫黄分や窒素分がほとんど含まれないため、SOxやNOxの発生が少ない
- 燃焼性が良好で制御性に優れる
- 気化するとガスの体積が液体の約600倍になるため、貯蔵・取扱いに注意が必要
4.2.4 バイオマス
バイオマス燃料は、植物由来の有機物を燃料として利用するものです。
主なバイオマス燃料:
- 木質バイオマス:間伐材、製材廃材、建築廃材など
- 農業廃棄物:もみ殻、麦わら、バガスなど
- エネルギー作物:発電用に栽培されるヤナギ、ミスカンサスなど
- 廃棄物由来燃料(RDF):一般廃棄物から作られる固形燃料
バイオマス燃料は「カーボンニュートラル」と見なされます。これは、燃焼時に放出されるCO₂が、植物の成長過程で大気から吸収したCO₂であるため、大気中のCO₂濃度に長期的な影響を与えないという考え方です。
4.3 燃料の発熱量と燃焼計算
燃料の発熱量には、高位発熱量(総発熱量)と低位発熱量(真発熱量)があります:
- 高位発熱量(HHV):燃焼ガス中の水蒸気が凝縮する際の潜熱も含めた発熱量
- 低位発熱量(LHV):水蒸気の凝縮潜熱を除いた発熱量(実際の利用可能な熱量)
例題:燃料消費量の計算
出力200MWの石炭火力発電所があり、熱効率は38%である。使用する石炭の低位発熱量が25MJ/kgの場合、1時間あたりの石炭消費量を求めよ。
入力熱量は出力を熱効率で割ることで求められます:
\begin{align*}
\text{入力熱量} &= \frac{\text{出力}}{\text{熱効率}} \\
&= \frac{200 \times 10^6 \, \text{W}}{0.38} \\
&= 526.3 \times 10^6 \, \text{W} = 526.3 \, \text{MW}
\end{align*}
1時間あたりの必要熱量:
\begin{align*}
\text{必要熱量} &= 526.3 \times 10^6 \, \text{W} \times 3600 \, \text{s} \\
&= 1894.7 \times 10^9 \, \text{J} = 1894.7 \, \text{GJ}
\end{align*}
石炭の消費量:
\begin{align*}
\text{石炭消費量} &= \frac{\text{必要熱量}}{\text{発熱量}} \\
&= \frac{1894.7 \times 10^9 \, \text{J}}{25 \times 10^6 \, \text{J/kg}} \\
&= 75788 \, \text{kg} \approx 75.8 \, \text{t/h}
\end{align*}
したがって、1時間あたりの石炭消費量は約75.8トンとなります。
5. 熱効率・サイクルの理解
5.1 熱効率の定義
熱効率は、投入した熱エネルギーのうち、電気エネルギーに変換された割合を表す指標です。
火力発電所の熱効率は、発電方式や燃料によって異なります:
- 従来型石炭火力:35〜42%
- 超々臨界圧石炭火力:40〜48%
- 天然ガス焚き従来型:38〜45%
- 天然ガス複合サイクル(GTCC):50〜62%
熱効率向上の意義:
- 燃料消費量の削減(経済性向上)
- CO₂排出量の削減(環境負荷低減)
- 資源の有効活用(持続可能性向上)
熱効率が1%向上すると、燃料消費量とCO₂排出量は約2〜3%削減されます。
5.2 熱効率改善手法
火力発電所の熱効率を向上させるためには、様々な技術的手法が採用されています。
5.2.1 蒸気条件の高温高圧化
蒸気の温度と圧力を高めることで、熱効率が向上します。蒸気条件の発展は以下のように進んできました:
- 亜臨界圧:16.6MPa未満、温度約540℃程度
- 超臨界圧(SC):22.1MPa以上、温度約540〜566℃
- 超々臨界圧(USC):24MPa以上、温度約600℃前後
- 先進超々臨界圧(A-USC):(開発中)28MPa以上、温度700℃以上
5.2.2 再熱サイクル
再熱サイクルは、高圧タービンを出た蒸気をボイラーで再加熱してから中圧タービンに導入する方式です。
再熱サイクルのメリット:
- 蒸気の平均温度が上昇し、熱効率が向上する(約3〜5%の効率向上)
- 低圧タービンでの湿り蒸気による損失と侵食を減少させる
- タービン最終段での蒸気乾き度が向上する
現代の大型火力発電所では、1段再熱または2段再熱方式が採用されています。
5.2.3 再生サイクル(給水加熱)
再生サイクルは、タービンから蒸気を抽気して給水を加熱する方式です。
再生サイクルのメリット:
- ボイラーでの平均熱吸収温度が上昇し、熱効率が向上する(約7〜10%の効率向上)
- 復水器での廃熱が減少する
- ボイラー内での熱応力が緩和される
一般的な大型火力発電所では、6〜8段階の給水加熱が採用されています。
5.2.4 コンバインドサイクル発電
コンバインドサイクル発電は、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電方式です。ガスタービンの排熱を回収して蒸気を発生させ、蒸気タービンで発電します。
コンバインドサイクル発電のメリット:
- 高い熱効率(50〜62%)
- 起動時間が短い(1〜2時間程度)
- 負荷変動への応答性が良好
- 環境負荷が比較的低い
特に天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電(GTCC: Gas Turbine Combined Cycle)は、高効率で環境負荷の低い発電方式として広く採用されています。
5.3 給水加熱と復水回収の意味
給水加熱と復水回収は、火力発電所の熱効率向上と安定運転に重要な役割を果たしています。
5.3.1 給水加熱の意義
給水加熱の主な目的:
- 熱効率の向上
給水温度を上げることで、ボイラーでの平均熱吸収温度が上昇し、カルノー効率の原理により熱効率が向上します。タービンの仕事の一部を抽気として使用しますが、全体としての効率は向上します。
- ボイラーの熱応力低減
冷たい給水がボイラーに入ると、ボイラー内部に大きな温度差が生じ、熱応力が発生します。給水を予熱することで、この温度差を小さくし、熱応力を低減できます。
- 脱気による腐食防止
給水温度を上げることで溶存酸素や二酸化炭素の溶解度が下がり、脱気器での除去が容易になります。これにより、ボイラーや配管の腐食を防止します。
5.3.2 給水加熱の方式
給水加熱には、主に以下の2種類の熱交換器が使用されます:
5.3.3 復水回収の意義
復水回収とは、タービンを通過した蒸気を復水器で水に戻し、再びボイラーへ送るプロセスです。
復水回収の意義:
- 水資源の有効利用
同じ水を循環使用することで、補給水量を最小限に抑えることができます。これにより、水処理コストの削減と水資源の保全が図れます。
- エネルギーの節約
復水には顕熱(水温)の形でエネルギーが残されています。この水をボイラーに戻すことで、新しい水を加熱するエネルギーを節約できます。
- 水質の管理
循環水は精製されており、不純物が少ないため、ボイラーの腐食やスケール形成を防止できます。
例題:給水加熱による熱効率向上の計算
火力発電所で、給水温度を30℃から200℃に上げる給水加熱システムを導入した場合の熱効率向上を概算せよ。ボイラー蒸気温度は540℃、復水器温度は40℃とする。
簡易的な計算として、カルノーサイクルの効率式を用いて比較します。理想的なカルノーサイクルの効率は次式で表されます:
\begin{align*}
\eta_{Carnot} = 1 - \frac{T_{L}}{T_{H}}
\end{align*}
ここで、\(T_H\)は高温側の絶対温度、\(T_L\)は低温側の絶対温度です。
給水加熱前:
\begin{align*}
\eta_{before} &= 1 - \frac{T_{L}}{T_{H}} \\
&= 1 - \frac{273 + 40}{273 + 540} \\
&= 1 - \frac{313}{813} \\
&\approx 1 - 0.385 \\
&\approx 0.615 = 61.5\%
\end{align*}
給水加熱後(平均吸熱温度を概算):
高温側の温度は同じですが、平均吸熱温度は給水温度によって変化します。簡易的に、(給水温度+蒸気温度)/2を平均吸熱温度と仮定します。
給水加熱前の平均吸熱温度:(30 + 540)/2 = 285℃
給水加熱後の平均吸熱温度:(200 + 540)/2 = 370℃
\begin{align*}
\eta_{after} &= 1 - \frac{T_{L}}{T_{H,avg}} \\
&= 1 - \frac{273 + 40}{273 + 370} \\
&= 1 - \frac{313}{643} \\
&\approx 1 - 0.487 \\
&\approx 0.513 = 51.3\%
\end{align*}
この簡易計算では、給水加熱によるカルノー効率の向上は見られませんが、実際には給水加熱によって熱効率は向上します。これは、単純なカルノーサイクルではなく、実際のランキンサイクルでは給水加熱により不可逆損失が減少し、サイクル全体の効率が向上するためです。正確な計算には、T-s線図上での各プロセスのエンタルピー変化を詳細に追跡する必要があります。
実際の火力発電所では、給水加熱による熱効率向上は約7〜10%程度とされています。
6. 環境対策装置
火力発電所からは、燃料の燃焼に伴いさまざまな環境負荷物質が排出されます。これらを低減するために、各種の環境対策装置が設置されています。
6.1 火力発電所の主な排出物
排出物 |
発生源 |
環境影響 |
対策技術 |
硫黄酸化物(SOx) |
燃料中の硫黄分の酸化 |
酸性雨、呼吸器系疾患 |
脱硫装置(FGD) |
窒素酸化物(NOx) |
燃焼過程での空気中窒素の酸化、燃料中の窒素分の酸化 |
光化学スモッグ、酸性雨 |
低NOxバーナー、脱硝装置(SCR) |
ばいじん(粉じん) |
燃料中の灰分、未燃炭素 |
大気汚染、呼吸器系疾患 |
電気集じん装置、バグフィルター |
二酸化炭素(CO₂) |
燃料中の炭素分の酸化 |
地球温暖化 |
高効率化、燃料転換、CCS技術 |
6.2 脱硫装置(FGD: Flue Gas Desulfurization)
脱硫装置は、排ガス中の硫黄酸化物(SOx)を除去する設備です。主に以下の方式があります:
6.2.1 湿式石灰石膏法
最も広く採用されている方式で、石灰石スラリーを用いて排ガス中のSOxを除去し、副産物として石膏を回収します。
化学反応式:
\[ \text{CaCO}_3 + \text{SO}_2 + \frac{1}{2}\text{H}_2\text{O} \rightarrow \text{CaSO}_3 \cdot \frac{1}{2}\text{H}_2\text{O} + \text{CO}_2 \]
\[ \text{CaSO}_3 \cdot \frac{1}{2}\text{H}_2\text{O} + \frac{1}{2}\text{O}_2 + \frac{3}{2}\text{H}_2\text{O} \rightarrow \text{CaSO}_4 \cdot 2\text{H}_2\text{O} \]
特徴:
- 脱硫効率が高い(90〜98%)
- 副産物の石膏は建材として利用可能
- 設備が大型で初期投資が高い
- 排ガスの再加熱が必要な場合がある
6.2.2 乾式脱硫法
排ガス流路に脱硫剤(活性炭、石灰など)を吹き込み、乾式で反応させる方式です。
特徴:
- 設備がコンパクトで初期投資が比較的低い
- 脱硫効率は中程度(70〜90%)
- 水を使用しないため、排水処理が不要
- 副産物の処理が必要
6.3 脱硝装置(SCR: Selective Catalytic Reduction)
脱硝装置は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去する設備です。主に以下の方式があります:
6.3.1 選択的触媒還元法(SCR)
アンモニアを還元剤として使用し、触媒の存在下でNOxを窒素と水に還元する方式です。
化学反応式:
\[ 4\text{NO} + 4\text{NH}_3 + \text{O}_2 \rightarrow 4\text{N}_2 + 6\text{H}_2\text{O} \]
\[ 2\text{NO}_2 + 4\text{NH}_3 + \text{O}_2 \rightarrow 3\text{N}_2 + 6\text{H}_2\text{O} \]
特徴:
- 脱硝効率が高い(80〜90%)
- 最適反応温度は300〜400℃
- 触媒(酸化チタン、バナジウム、タングステンなど)を使用
- アンモニアの漏洩(スリップ)に注意が必要
6.3.2 燃焼法によるNOx低減
燃焼過程でのNOx生成を抑制する技術です。
- 低NOxバーナー:燃焼域での空気供給を制御し、NOx生成を抑制
- 二段燃焼法:燃焼を燃料過剰域と空気過剰域に分けてNOx生成を抑制
- 排ガス再循環法:排ガスの一部を燃焼用空気に混合して燃焼温度を下げ、NOx生成を抑制
6.4 電気集じん装置(ESP: Electrostatic Precipitator)
電気集じん装置は、排ガス中のばいじん(粉じん)を除去する設備です。
6.4.1 動作原理
電気集じん装置の動作は以下の4段階に分けられます:
- コロナ放電:放電極に高電圧を印加してコロナ放電を発生させます
- 帯電:コロナ放電によって生じたイオンがばいじん粒子に付着し、粒子を帯電させます
- 捕集:帯電したばいじん粒子が、逆極性に帯電した集じん極に向かって移動し、集じん極に捕集されます
- 払落し:集じん極に堆積したばいじんをハンマリングにより払い落とし、ホッパーに回収します
特徴:
- 高い集じん効率(99%以上)
- 大量の排ガス処理が可能
- 圧力損失が小さい
- 設備が大型
- 高電圧設備のため、安全面での配慮が必要
6.4.2 バグフィルター
バグフィルターは、布製のフィルターを使用してばいじんを捕集する装置です。
特徴:
- 極めて高い集じん効率(99.9%以上)
- 小型から大型まで幅広く対応可能
- 圧力損失が比較的大きい
- フィルターの定期的な交換が必要
- 高温ガスには適さない場合がある
6.5 二酸化炭素(CO₂)対策
火力発電所からのCO₂排出削減には、以下のようなアプローチがあります:
- 発電効率の向上
熱効率を向上させることで、同じ電力を発生させるのに必要な燃料量を減らし、CO₂排出量を削減します。
- 燃料転換
炭素含有量の少ない燃料(石炭→天然ガス)や再生可能燃料(バイオマス)への転換を図ります。
- 炭素回収・貯留(CCS: Carbon Capture and Storage)
発電所から排出されるCO₂を回収し、地下深くに貯留する技術です。主な回収方式には、燃焼後回収、燃焼前回収、酸素燃焼方式があります。
- バイオマス混焼
石炭にバイオマス燃料を混ぜて燃焼させることで、カーボンニュートラルの観点からCO₂排出削減につながります。
各種環境対策装置の設置によって、プラント効率が低下する場合があります。例えば、脱硫装置によるポンプ動力の消費、脱硝装置での触媒再生熱、電気集じん装置での電力消費などが、所内電力消費量の増加につながります。これらを含めた正味の発電効率を「送電端効率」と呼びます。
7. ボイラーの種類
火力発電用ボイラーは、水の循環方式によって大きく分類されます。主に以下の3種類があります。
7.1 自然循環ボイラー
自然循環ボイラーの特徴:
- 水の循環原理:ボイラードラムから下降管を通って水が降り、加熱されて上昇管を通って蒸気と水の混合物がドラムに戻ります。この循環は水と蒸気の密度差による自然対流で行われます。
- 適用圧力範囲:16.6MPa(臨界圧)以下。高圧になると水と蒸気の密度差が小さくなり、自然循環力が弱まります。
- 長所:構造がシンプルで信頼性が高い、部分負荷での運転特性が良好、循環ポンプが不要
- 短所:高圧化に限界がある、大型化すると循環管が長くなる
- 適用例:中小容量の亜臨界圧発電所、産業用ボイラー
7.2 強制循環ボイラー
強制循環ボイラーの特徴:
- 水の循環原理:循環ポンプを用いて強制的に水を循環させます。自然循環と同様にドラム式です。
- 適用圧力範囲:臨界圧(22.1MPa)付近まで適用可能です。
- 長所:高圧化が可能、循環比の調整ができる、設計の自由度が高い
- 短所:循環ポンプの動力が必要、系統が複雑になる、ポンプの信頼性に依存
- 適用例:高圧の中・大容量発電所、負荷変動の大きい発電所
7.3 貫流ボイラー
貫流ボイラーの特徴:
- 水の循環原理:ドラムを持たず、給水ポンプの力で水を一方向に流し、途中で水から蒸気に変化させます。水の循環がなく、貫流するだけです。
- 適用圧力範囲:臨界圧(22.1MPa)を超える超臨界圧、超々臨界圧に適用されます。
- 主な方式:ベンソンボイラー、ズルザーボイラー、バブコック貫流ボイラーなど
- 長所:超高圧化が可能、起動時間が短い、負荷変動への追従性が良好
- 短所:給水の高純度化が必要、部分負荷時の制御が複雑、ボイラー水の保有量が少ない
- 適用例:超臨界圧・超々臨界圧の大容量発電所
7.4 ボイラーの選定要素
発電用ボイラーの選定には以下の要素が考慮されます:
- 運転圧力:高圧化による効率向上を目指す場合は貫流ボイラーが選ばれます。
- 燃料種類:燃料によって適した燃焼方式やボイラー構造が異なります。
- 負荷変動特性:負荷変動が大きい場合は応答性の良い方式が選ばれます。
- 発電容量:大容量発電所では効率を重視した貫流ボイラーが多いです。
- 信頼性:運転信頼性を重視する場合は自然循環方式が選ばれることがあります。
- 経済性:初期投資と運転コストの両面から最適な方式が選定されます。
日本の大型火力発電所においては、より高効率を追求するため、超臨界圧・超々臨界圧条件での運転が可能な貫流ボイラーが主流となっています。一方、中小規模の発電所や産業用ボイラーでは、信頼性に優れた自然循環ボイラーや強制循環ボイラーも多く採用されています。
8. 発電運用と制御
8.1 ベースロードとピーク対応
電力需要は時間帯や季節によって変動するため、発電所はその特性に応じた運用が行われます。
- ベースロード運転
電力需要の基底部分(常に必要な部分)を担う運転方式です。大型の石炭火力や原子力発電所が主に担当します。
特徴:高い設備利用率(70〜90%)、負荷変動が少ない、起動停止の頻度が少ない
- ミドル運転
電力需要の中間的な部分を担う運転方式です。中規模のLNG火力などが担当します。
特徴:中程度の設備利用率(30〜70%)、ある程度の負荷変動に対応
- ピーク対応運転
電力需要のピーク時(昼間や夏季・冬季の需要増加時)に対応する運転方式です。LNG・石油火力、揚水発電などが担当します。
特徴:低い設備利用率(20〜30%)、頻繁な起動停止、急速な負荷変動に対応
8.2 発電負荷追従
火力発電所は電力需要の変動に応じて出力を調整する必要があります。
8.2.1 負荷変化率
負荷変化率は、定格出力に対する単位時間あたりの出力変化の割合で表されます。
\[ \text{負荷変化率} = \frac{\text{出力変化}[\%]}{\text{時間}[\text{分}]} [\%/\text{分}] \]
主な発電方式の負荷変化率:
- ガスタービン・コンバインドサイクル:5〜8%/分
- 石油火力:3〜5%/分
- LNG従来型火力:3〜5%/分
- 石炭火力:1〜3%/分
- 原子力発電:1〜5%/分(設計による)
8.2.2 最低負荷率
最低負荷率は、安定運転可能な最低出力を定格出力に対する割合で表したものです。
主な発電方式の最低負荷率:
- ガスタービン:約30〜50%
- 石油火力:約25〜40%
- LNG従来型火力:約25〜40%
- 石炭火力:約30〜50%
8.3 自動制御装置
火力発電所の運転は、様々な自動制御装置によって安定的に行われています。
8.3.1 自動燃焼制御(ACC: Automatic Combustion Control)
自動燃焼制御は、ボイラー燃焼量を制御して蒸気条件(圧力・温度・流量)を一定に保つシステムです。
主な制御対象:
- 燃料供給量
- 空気流量(空燃比制御)
- 燃焼関連機器(送風機、排風機など)
8.3.2 ボイラー・タービン協調制御(CCS: Coordinated Control System)
ボイラーとタービンの動作を協調させ、負荷変動時も安定した運転を実現するシステムです。
主な制御機能:
- ボイラーフォロー運転:タービンの制御弁で出力を調整し、ボイラーがそれに追従する方式
- タービンフォロー運転:ボイラーの燃焼量で出力を調整し、タービンがそれに追従する方式
- 協調運転:負荷指令に対してボイラーとタービンを同時に制御する方式
8.3.3 自動給水制御(AFR: Automatic Feedwater Regulation)
ボイラーの水位を適正に保つために給水流量を制御するシステムです。
主な制御方式:
- 単要素制御:ドラム水位のみを検出して制御
- 二要素制御:ドラム水位と蒸気流量を検出して制御
- 三要素制御:ドラム水位、蒸気流量、給水流量を検出して制御(最も一般的)
8.3.4 自動負荷制御(AGC: Automatic Generation Control)
電力系統の周波数維持のために、中央給電指令所からの信号に基づいて発電機出力を自動的に調整するシステムです。
火力発電所の制御系統の設計では、以下のような要素が考慮されます:
- 応答性:負荷変動に対する追従速度
- 安定性:振動や過渡的な不安定を抑制する能力
- 経済性:最小の燃料消費で運転する最適制御
- 信頼性:故障時のバックアップや冗長性
- 環境性:排出物を最小化する制御
8.4 起動・停止操作と計装設備
火力発電所の起動・停止は複雑なプロセスで、様々な計装設備による監視と制御が必要です。
8.4.1 起動手順の概要
- 準備工程:給水系統の準備、補機の起動、系統のパージ
- 点火工程:バーナーの点火、燃焼の安定化
- 昇圧工程:ボイラー圧力の上昇、主蒸気温度の上昇
- タービン起動工程:タービンの暖機、回転上昇、同期投入
- 負荷上昇工程:発電機出力の上昇、定格運転への移行
8.4.2 起動区分
火力発電所の起動は、停止期間に応じて以下のように区分されます:
- ホットスタート:短時間停止(8時間以内)からの起動。主要機器が十分に温かく、比較的短時間で起動できる。
- ウォームスタート:中時間停止(8〜50時間程度)からの起動。主要機器がある程度冷えており、慎重な暖機が必要。
- コールドスタート:長時間停止(50時間以上)からの起動。主要機器が冷えており、徐々に暖機する必要がある。
8.4.3 主要計装設備
火力発電所の運転監視に使用される主な計装設備:
- 流量計:給水流量、蒸気流量、燃料流量などの測定
- 圧力計:ボイラー圧力、タービン入口・出口圧力などの測定
- 温度計:蒸気温度、排ガス温度、金属温度などの測定
- 水位計:ドラム水位、タンク水位などの測定
- 排ガス分析計:O₂、CO、NOx、SOxなどの測定
- 回転速度計:タービン、ポンプ、ファンなどの回転速度測定
- 振動計:回転機器の振動監視
- 電気計測器:電圧、電流、電力、周波数などの測定
9. 計算問題
第三種電気主任技術者試験では、火力発電に関する基本的な計算問題が出題されます。ここでは主な計算内容と解法について説明します。
9.1 熱効率の計算
発電出力は通常 kW または MW 単位で与えられます。
投入熱量は以下の方法で計算します:
例題1:熱効率の計算
火力発電所の出力が300 MWで、毎時90トンの石炭を消費している。石炭の低位発熱量が25,000 kJ/kgのとき、この発電所の熱効率を求めよ。
まず、投入熱量を計算します:
\begin{align*}
\text{燃料消費量} &= 90 \, \text{t/h} = 90,000 \, \text{kg/h} = 25 \, \text{kg/s} \\[10pt]
\text{投入熱量} &= 25 \, \text{kg/s} \times 25,000 \, \text{kJ/kg} = 625,000 \, \text{kW} = 625 \, \text{MW}
\end{align*}
次に、熱効率を計算します:
\begin{align*}
\eta &= \frac{\text{発電出力}}{\text{投入熱量}} \times 100 \, [\%] \\[10pt]
&= \frac{300 \, \text{MW}}{625 \, \text{MW}} \times 100 \\[10pt]
&= 48 \, [\%]
\end{align*}
したがって、この発電所の熱効率は48%です。
9.2 燃料消費量の計算
単位に注意が必要です:
- 発電出力:kJ/s(= kW)
- 熱効率:小数(%表示の場合は100で割る)
- 燃料の低位発熱量:kJ/kg
- 計算結果の燃料消費量:kg/s
例題2:燃料消費量の計算
出力500 MWの火力発電所があり、熱効率は42%である。使用する燃料の低位発熱量が43,000 kJ/kgのとき、1日あたりの燃料消費量を求めよ。
燃料消費量の基本式を用います:
\begin{align*}
\text{燃料消費量} &= \frac{\text{発電出力}}{\text{熱効率} \times \text{燃料の低位発熱量}} \\[10pt]
&= \frac{500 \times 10^6 \, \text{W}}{0.42 \times 43,000 \, \text{kJ/kg}} \\[10pt]
&= \frac{500 \times 10^6 \, \text{J/s}}{0.42 \times 43,000 \times 10^3 \, \text{J/kg}} \\[10pt]
&= \frac{500 \times 10^6}{0.42 \times 43,000 \times 10^3} \, \text{kg/s} \\[10pt]
&= 27.67 \, \text{kg/s}
\end{align*}
1日(24時間)あたりの燃料消費量に換算します:
\begin{align*}
\text{1日あたりの燃料消費量} &= 27.67 \, \text{kg/s} \times 3600 \, \text{s/h} \times 24 \, \text{h/日} \\[10pt]
&= 2,390,688 \, \text{kg/日} \\[10pt]
&\approx 2,391 \, \text{t/日}
\end{align*}
したがって、1日あたりの燃料消費量は約2,391トンです。
9.3 蒸気のエンタルピー差と出力計算
例題3:蒸気タービンの出力計算
蒸気タービンに毎秒200kgの蒸気が流入している。入口蒸気のエンタルピーが3,400kJ/kg、出口蒸気のエンタルピーが2,300kJ/kg、タービン効率が88%のとき、このタービンの出力を求めよ。
蒸気タービンの出力計算式を用います:
\begin{align*}
P &= \dot{m} \times \Delta h \times \eta_t \\[10pt]
&= 200 \, \text{kg/s} \times (3,400 - 2,300) \, \text{kJ/kg} \times 0.88 \\[10pt]
&= 200 \, \text{kg/s} \times 1,100 \, \text{kJ/kg} \times 0.88 \\[10pt]
&= 193,600 \, \text{kW} = 193.6 \, \text{MW}
\end{align*}
したがって、このタービンの出力は193.6 MWです。
9.4 電力量の計算
例題4:電力量と燃料費の計算
出力400MWの火力発電所が年間稼働率75%で運転された。燃料消費率が0.25kg/kWhで、燃料単価が15円/kgのとき、年間の燃料費を求めよ。
まず、年間発電電力量を計算します:
\begin{align*}
\text{年間発電電力量} &= \text{出力} \times \text{年間時間数} \times \text{稼働率} \\[10pt]
&= 400,000 \, \text{kW} \times 8,760 \, \text{h} \times 0.75 \\[10pt]
&= 2,628,000,000 \, \text{kWh} = 2,628 \, \text{GWh}
\end{align*}
次に、年間燃料消費量を計算します:
\begin{align*}
\text{年間燃料消費量} &= \text{年間発電電力量} \times \text{燃料消費率} \\[10pt]
&= 2,628,000,000 \, \text{kWh} \times 0.25 \, \text{kg/kWh} \\[10pt]
&= 657,000,000 \, \text{kg} = 657,000 \, \text{t}
\end{align*}
最後に、年間燃料費を計算します:
\begin{align*}
\text{年間燃料費} &= \text{年間燃料消費量} \times \text{燃料単価} \\[10pt]
&= 657,000,000 \, \text{kg} \times 15 \, \text{円/kg} \\[10pt]
&= 9,855,000,000 \, \text{円} \approx 98.6 \, \text{億円}
\end{align*}
したがって、年間の燃料費は約98.6億円です。
9.5 熱量・エネルギー保存の計算
例題5:熱バランスの計算
火力発電所で、投入熱量の40%が電気エネルギーに変換され、15%が煙突からの排熱、5%が放射損失、残りが冷却水への放熱となっている。投入熱量が1,000GJのとき、冷却水への放熱量を求めよ。
熱バランスの式より、投入熱量は以下のように分配されます:
\begin{align*}
Q_{in} &= Q_{electric} + Q_{stack} + Q_{radiation} + Q_{cooling} \\[10pt]
1,000 \, \text{GJ} &= 0.40 \times 1,000 \, \text{GJ} + 0.15 \times 1,000 \, \text{GJ} + 0.05 \times 1,000 \, \text{GJ} + Q_{cooling} \\[10pt]
1,000 \, \text{GJ} &= 400 \, \text{GJ} + 150 \, \text{GJ} + 50 \, \text{GJ} + Q_{cooling} \\[10pt]
Q_{cooling} &= 1,000 \, \text{GJ} - 400 \, \text{GJ} - 150 \, \text{GJ} - 50 \, \text{GJ} \\[10pt]
&= 400 \, \text{GJ}
\end{align*}
したがって、冷却水への放熱量は400GJです。
計算問題のポイント
第三種電気主任技術者試験の計算問題では、以下の点に注意しましょう:
- 単位の扱い(特にkW、MW、GWなどの換算)に注意
- 熱効率は小数(例:40%→0.40)で計算に使用
- 時間あたりの値と総量の区別を明確に
- 有効数字の取り扱いに注意(通常は3桁程度の精度)
- 熱力学の第1法則(エネルギー保存則)を理解しておく
10. 演習問題
問題1:熱効率の計算
火力発電所の出力が250 MW、燃料消費量が毎時85トンである。燃料の低位発熱量が29,000 kJ/kgのとき、この発電所の熱効率を求めよ。
解答:
まず、投入熱量を計算します:
\begin{align*}
\text{燃料消費量} &= 85 \, \text{t/h} = 85,000 \, \text{kg/h} = \frac{85,000}{3600} \, \text{kg/s} = 23.61 \, \text{kg/s} \\[10pt]
\text{投入熱量} &= 23.61 \, \text{kg/s} \times 29,000 \, \text{kJ/kg} = 684,722 \, \text{kW} = 684.72 \, \text{MW}
\end{align*}
次に、熱効率を計算します:
\begin{align*}
\eta &= \frac{\text{発電出力}}{\text{投入熱量}} \times 100 \, [\%] \\[10pt]
&= \frac{250 \, \text{MW}}{684.72 \, \text{MW}} \times 100 \\[10pt]
&= 36.5 \, [\%]
\end{align*}
したがって、この発電所の熱効率は約36.5%です。
問題2:燃料消費量の計算
熱効率40%の石炭火力発電所があり、出力は350 MWである。石炭の低位発熱量が26,000 kJ/kgのとき、この発電所の毎時の石炭消費量を求めよ。
解答:
燃料消費量の基本式を用います:
\begin{align*}
\text{燃料消費量} &= \frac{\text{発電出力}}{\text{熱効率} \times \text{燃料の低位発熱量}} \\[10pt]
&= \frac{350 \times 10^6 \, \text{W}}{0.40 \times 26,000 \, \text{kJ/kg}} \\[10pt]
&= \frac{350 \times 10^6 \, \text{J/s}}{0.40 \times 26,000 \times 10^3 \, \text{J/kg}} \\[10pt]
&= \frac{350 \times 10^6}{0.40 \times 26,000 \times 10^3} \, \text{kg/s} \\[10pt]
&= 33.65 \, \text{kg/s}
\end{align*}
毎時の燃料消費量に換算します:
\begin{align*}
\text{毎時の燃料消費量} &= 33.65 \, \text{kg/s} \times 3600 \, \text{s/h} \\[10pt]
&= 121,140 \, \text{kg/h} \\[10pt]
&\approx 121.1 \, \text{t/h}
\end{align*}
したがって、この発電所の毎時の石炭消費量は約121.1トンです。
問題3:電力量と燃料費の計算
出力500 MWの火力発電所が、1ヶ月間(30日)にわたって平均負荷率70%で運転された。燃料消費率が0.3 kg/kWhで、燃料単価が12円/kgのとき、1ヶ月間の燃料費を求めよ。
解答:
まず、1ヶ月間の発電電力量を計算します:
\begin{align*}
\text{1ヶ月間の発電電力量} &= \text{出力} \times \text{時間数} \times \text{負荷率} \\[10pt]
&= 500 \, \text{MW} \times 30 \, \text{日} \times 24 \, \text{h/日} \times 0.70 \\[10pt]
&= 500,000 \, \text{kW} \times 720 \, \text{h} \times 0.70 \\[10pt]
&= 252,000,000 \, \text{kWh} = 252 \, \text{GWh}
\end{align*}
次に、燃料消費量を計算します:
\begin{align*}
\text{燃料消費量} &= \text{発電電力量} \times \text{燃料消費率} \\[10pt]
&= 252,000,000 \, \text{kWh} \times 0.3 \, \text{kg/kWh} \\[10pt]
&= 75,600,000 \, \text{kg} = 75,600 \, \text{t}
\end{align*}
最後に、燃料費を計算します:
\begin{align*}
\text{燃料費} &= \text{燃料消費量} \times \text{燃料単価} \\[10pt]
&= 75,600,000 \, \text{kg} \times 12 \, \text{円/kg} \\[10pt]
&= 907,200,000 \, \text{円} \approx 9.07 \, \text{億円}
\end{align*}
したがって、1ヶ月間の燃料費は約9.07億円です。
問題4:蒸気タービンの出力計算
蒸気タービンへの入口蒸気条件が温度540℃、圧力16 MPa、エンタルピー3,450 kJ/kg、出口蒸気条件が温度40℃、圧力5 kPa、エンタルピー2,250 kJ/kgである。蒸気流量が180 kg/s、タービン効率が85%のとき、このタービンの出力を求めよ。
解答:
蒸気タービンの出力計算式を用います:
\begin{align*}
P &= \dot{m} \times \Delta h \times \eta_t \\[10pt]
&= 180 \, \text{kg/s} \times (3,450 - 2,250) \, \text{kJ/kg} \times 0.85 \\[10pt]
&= 180 \, \text{kg/s} \times 1,200 \, \text{kJ/kg} \times 0.85 \\[10pt]
&= 183,600 \, \text{kW} = 183.6 \, \text{MW}
\end{align*}
したがって、このタービンの出力は183.6 MWです。
問題5:熱バランスの計算
火力発電所において、燃料の燃焼によって毎時3,600 GJの熱量が発生している。このうち1,440 GJが電気エネルギーに変換され、1,800 GJが冷却水へ、180 GJが排ガスとして放出されている。放射損失および未計測の損失は何 GJ/hか。また、この発電所の熱効率は何%か。
解答:
熱バランスの式より、放射損失および未計測の損失は次のように計算できます:
\begin{align*}
Q_{loss} &= Q_{in} - Q_{electric} - Q_{cooling} - Q_{exhaust} \\[10pt]
&= 3,600 \, \text{GJ/h} - 1,440 \, \text{GJ/h} - 1,800 \, \text{GJ/h} - 180 \, \text{GJ/h} \\[10pt]
&= 180 \, \text{GJ/h}
\end{align*}
熱効率は、入熱量に対する発電出力の割合です:
\begin{align*}
\eta &= \frac{Q_{electric}}{Q_{in}} \times 100 \, [\%] \\
&= \frac{1,440 \, \text{GJ/h}}{3,600 \, \text{GJ/h}} \times 100 \\
&= 40 \, [\%]
\end{align*}
したがって、放射損失および未計測の損失は180 GJ/h、熱効率は40%です。
問題6:総合問題
出力600 MWの石炭火力発電所があり、石炭の低位発熱量は25,000 kJ/kg、ボイラー効率は90%、タービン・発電機総合効率は48%である。
(1) この発電所の総合熱効率を求めよ。
(2) 毎時の石炭消費量を求めよ。
(3) CO₂排出係数が2.3 kg-CO₂/kgのとき、この発電所の発電電力量あたりのCO₂排出量(kg-CO₂/kWh)を求めよ。
解答:
(1) 総合熱効率は、ボイラー効率とタービン・発電機総合効率の積です:
\begin{align*}
\eta_{total} &= \eta_{boiler} \times \eta_{turbine-generator} \\[10pt]
&= 0.90 \times 0.48 \\[10pt]
&= 0.432 = 43.2 \, [\%]
\end{align*}
(2) 毎時の石炭消費量を計算します:
\begin{align*}
\text{燃料消費量} &= \frac{\text{発電出力}}{\text{総合熱効率} \times \text{燃料の低位発熱量}} \\[10pt][10pt]
&= \frac{600 \times 10^6 \, \text{W}}{0.432 \times 25,000 \, \text{kJ/kg}} \\[10pt]
&= \frac{600 \times 10^6 \, \text{J/s}}{0.432 \times 25,000 \times 10^3 \, \text{J/kg}} \\[10pt][10pt]
&= 55.56 \, \text{kg/s}
\end{align*}
毎時の石炭消費量に換算:
\begin{align*}
\text{毎時の石炭消費量} &= 55.56 \, \text{kg/s} \times 3600 \, \text{s/h} \\[10pt]
&= 200,016 \, \text{kg/h} \approx 200 \, \text{t/h}
\end{align*}
(3) 発電電力量あたりのCO₂排出量を計算します:
\begin{align*}
\text{CO₂排出量} &= \frac{\text{燃料消費量} \times \text{CO₂排出係数}}{\text{発電電力量}} \\[10pt]
&= \frac{55.56 \, \text{kg/s} \times 2.3 \, \text{kg-CO₂/kg}}{600,000 \, \text{kW}} \\[10pt]
&= \frac{127.79 \, \text{kg-CO₂/s}}{600,000 \, \text{kW}} \\[10pt]
&= 0.000213 \, \text{kg-CO₂/kW・s} \\[10pt]
&= 0.767 \, \text{kg-CO₂/kWh}
\end{align*}
したがって、(1)総合熱効率は43.2%、(2)毎時の石炭消費量は約200 t/h、(3)発電電力量あたりのCO₂排出量は0.767 kg-CO₂/kWhです。
11. まとめ
重要ポイントの要約
火力発電の基本原理
- 燃料の化学エネルギーが、燃焼→熱→蒸気→機械エネルギー→電気エネルギーと変換される
- ランキンサイクルに基づく熱サイクルが基本となる
- 熱効率は投入熱量に対する発電出力の割合(通常30〜45%)
主要設備と機能
- ボイラー:燃料を燃焼させ、高温高圧の蒸気を発生(蒸発器、過熱器、再熱器)
- 蒸気タービン:蒸気の熱エネルギーを回転運動に変換(高圧、中圧、低圧段)
- 発電機:タービンの回転を電気エネルギーに変換
- 復水器:タービンを出た蒸気を冷却して水に戻す
- 給水装置:復水をボイラーに送るための装置(脱気器、給水ポンプ)
燃料と熱効率
- 主な燃料:石炭、重油、LNG、バイオマスなど
- 熱効率向上手法:高温高圧化、再熱サイクル、再生サイクル、コンバインドサイクル
- 給水加熱による効率向上と熱応力低減
環境対策装置
- 脱硫装置(FGD):SOxの除去
- 脱硝装置(SCR):NOxの除去
- 電気集じん装置:ばいじんの捕集
- CO₂対策:高効率化、燃料転換、CCS技術
ボイラーの種類
- 自然循環ボイラー:密度差による自然対流(16.6MPa以下)
- 強制循環ボイラー:ポンプによる強制循環(~22MPa程度)
- 貫流ボイラー:一方向流、ドラムなし(超臨界圧・超々臨界圧)
運用と制御
- ベースロード、ミドル、ピーク対応などの運用方式
- 自動制御系:自動燃焼制御、ボイラー・タービン協調制御、給水制御など
- 負荷追従性と最低負荷率
重要な計算
- 熱効率:η = 発電出力/投入熱量 × 100 [%]
- 燃料消費量:燃料消費量 = 発電出力/(熱効率 × 発熱量)
- 蒸気タービン出力:P = 蒸気流量 × エンタルピー差 × タービン効率
- 電力量:E = P × t (kWh = kW × h)
次の学習単元への橋渡し
火力発電の基本的な知識を習得したら、次のステップとして以下の学習が推奨されます:
- 電力系統と系統連系:発電所と電力系統の連携、系統安定性
- 送配電技術:発電した電力を需要家へ送る技術
- 他の発電方式:原子力発電、水力発電、再生可能エネルギー発電との比較
- 最新の火力発電技術:IGCC、燃料電池複合発電など
- 省エネルギー技術:コージェネレーションなど
第三種電気主任技術者試験対策
火力発電に関する問題は、「電力」の科目で出題されます。特に、発電原理、主要設備の構成と機能、熱効率計算といった基本的な内容がよく出題されます。熱効率、燃料消費量、発電電力量などの基本的な計算をしっかり理解し、素早く計算できるようにしておきましょう。また、電力系統に関連する内容は「電力」の科目でも出題されることがあります。