私たちの周りには目に見えない「電界」が存在し、私たちの生活を支えています。スマートフォンの充電から、家庭用コンセントからの電力供給、さらには雷などの自然現象まで、すべては「電界」と「電位」の概念で説明できます。
電界(Electric Field)と電位(Electric Potential)は、電気工学の基礎を成す重要な概念です。これらの概念は、目に見えない電荷の作用を理解するための理論的枠組みを提供し、あらゆる電気機器の設計から電力システムの解析まで、幅広い応用があります。
第三種電気主任技術者試験における重要性
電界と電位の理解は、第三種電気主任技術者試験の「理論」科目において基本的かつ重要な位置を占めています。特に「電気理論」分野では、電界・電位の概念から始まり、コンデンサや静電エネルギーなどの応用的な内容へと発展していきます。この理解が不十分だと、続く電磁界や交流回路の理解も困難になります。毎年の試験では、電界・電位に関する基本的な計算問題や概念問題が必ず出題されています。
本学習ページでは、電界と電位の基本概念から始め、それらの計算方法、相互関係、そして実際の応用まで、段階的に解説していきます。数式だけでなく、物理的な意味や直感的な理解を重視し、初学者でも理解しやすいように配慮しています。また、第三種電気主任技術者試験での出題傾向に即した演習問題も用意しています。
この学習を通して、目に見えない電気現象を「見える化」し、電気工学の基礎をしっかりと構築していきましょう。
電界(Electric Field)とは、空間の各点において電荷が受ける電気力の大きさと方向を表すベクトル場です。電界の強さは、単位正電荷(+1クーロン)がその点で受ける力として定義されます。
ここで:
電界の単位は [V/m](ボルト/メートル)または [N/C](ニュートン/クーロン)で表され、これらは等価です(\(1 \, \mathrm{V/m} = 1 \, \mathrm{N/C}\))。
電界の物理的意味
電界は、その空間に小さなテスト電荷を置いたとき、どのような力を受けるかを予測するための概念です。例えば、正電荷の周りには「外向き」の電界が形成され、別の正電荷はこの電界により「外向き」の力を受けます(斥力)。一方、負電荷はこの電界により「内向き」の力を受けます(引力)。電界は「力の場」とも言え、目に見えない電気力の伝達を表現します。
空間内の点 P における電界 \(\vec{E}\) は、点電荷 \(q\) がある場合、クーロンの法則から導かれる以下の式で計算できます:
ここで:
上記の式では、電荷 \(q\) が正の場合は電界は点電荷から外向きに、\(q\) が負の場合は電界は点電荷に向かって内向きになります。
電界の大きさだけを考える場合、次の式で計算できます:
ここで \(k\) はクーロン定数で、\(k = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \approx 9 \times 10^9 \, \mathrm{N \cdot m^2/C^2}\) です。
例題:点電荷による電界の計算
点電荷 \(q = 2 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) から \(r = 0.1 \, \mathrm{m}\) 離れた点における電界の大きさを求めよ。
解答:
\begin{align*} E &= k \frac{|q|}{r^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{|2 \times 10^{-9}|}{(0.1)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{2 \times 10^{-9}}{0.01} \\ &= 9 \times 10^9 \times 2 \times 10^{-7} \\ &= 1.8 \times 10^3 \, \mathrm{V/m} \end{align*}したがって、電界の大きさは \(1.8 \times 10^3 \, \mathrm{V/m}\)(または \(1.8 \, \mathrm{kV/m}\))となります。
複数の電荷が存在する場合、任意の点における電界は、各電荷が単独で作る電界のベクトル和として計算できます。これを重ね合わせの原理と呼びます。
ここで \(\vec{E}_i\) は、\(i\) 番目の電荷が単独で作る電界ベクトルです。
例題:2つの点電荷による電界
点電荷 \(q_1 = 3 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) と点電荷 \(q_2 = -2 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) が \(x\) 軸上にあり、それぞれ座標 \(x_1 = 0 \, \mathrm{m}\) と \(x_2 = 0.2 \, \mathrm{m}\) に位置している。\(x\) 軸上の点 \(P(x = 0.1 \, \mathrm{m})\) における電界を求めよ。
解答:
点 \(P\) における電界は、\(q_1\) によるベクトル \(\vec{E}_1\) と \(q_2\) によるベクトル \(\vec{E}_2\) のベクトル和です。
\(q_1\) による電界:
\begin{align*} \vec{E}_1 &= k \frac{q_1}{r_1^2} \hat{r}_1 \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{3 \times 10^{-9}}{(0.1)^2} \times (+1) \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{3 \times 10^{-9}}{0.01} \\ &= 2.7 \times 10^3 \, \mathrm{V/m} \end{align*}ここで、\(\hat{r}_1 = +1\) は \(x\) 軸の正の方向を指しています(\(q_1\) は正電荷であり、点 \(P\) は \(q_1\) の右側にあるため)。
\(q_2\) による電界:
\begin{align*} \vec{E}_2 &= k \frac{q_2}{r_2^2} \hat{r}_2 \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{-2 \times 10^{-9}}{(0.1)^2} \times (-1) \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{-2 \times 10^{-9}}{0.01} \times (-1) \\ &= 1.8 \times 10^3 \, \mathrm{V/m} \end{align*}ここで、\(\hat{r}_2 = -1\) は \(x\) 軸の負の方向を指しています(\(q_2\) は負電荷であり、点 \(P\) は \(q_2\) の左側にあるため)。
全電界は:
\begin{align*} \vec{E} &= \vec{E}_1 + \vec{E}_2 \\ &= 2.7 \times 10^3 + 1.8 \times 10^3 \\ &= 4.5 \times 10^3 \, \mathrm{V/m} \end{align*}したがって、点 \(P\) における電界は \(4.5 \times 10^3 \, \mathrm{V/m}\)(または \(4.5 \, \mathrm{kV/m}\))で、\(x\) 軸の正の方向を向いています。
電気力線(Electric Field Lines)は、電界の方向と強さを視覚的に表現する手法です。電気力線には以下の特徴があります:
電気力線の意味
電気力線は、「もし小さな正電荷をその場所に置いたら、どのような経路で動くか」を示します。つまり、正電荷は電気力線に沿って移動する傾向があります。これは水流や風の流線に似た概念です。電気力線は電界を視覚化する便利な道具ですが、実際に物理的に存在するものではありません。
典型的な電荷配置と対応する電気力線のパターンを覚えておくことで、電界の概念がより直感的に理解できるようになります。
電界の基礎まとめ
電位(Electric Potential)とは、空間の各点において単位電荷あたりの電位エネルギーを表すスカラー場です。電位の基準点(ゼロ点)は通常、無限遠点または地球(アース)を選びます。
ここで:
電位の物理的意味
電位は、電荷がその点まで移動するために必要な単位電荷あたりの仕事量を表します。より高い電位の点から低い電位の点へ正電荷を移動させると、外部から仕事をする必要はなく、むしろエネルギーが放出されます(自発的に移動)。反対に、低い電位から高い電位へ正電荷を移動させるには、外部からエネルギーを加える必要があります(非自発的な移動)。
電位は位置のみに依存するスカラー量であり、方向の概念はありません。電位の差(電位差)が、電荷の移動に関連する仕事量を決定します。
日常生活での例え
電位は、地形の「高度」に例えることができます。ボールが高い場所から低い場所へ自然に転がるように、正電荷は高い電位から低い電位へ自然に移動します。反対に、ボールを低い場所から高い場所へ移動させるには、外部からエネルギー(仕事)を加える必要があるのと同様に、正電荷を低い電位から高い電位へ移動させるには、外部から仕事をする必要があります。
空間内の点 P における電位 \(V\) は、点電荷 \(q\) がある場合、以下の式で計算できます:
ここで:
電位の計算では、正電荷は正の電位を、負電荷は負の電位を生成します。また、電位は距離 \(r\) に反比例しますが、電界の場合の距離の二乗に反比例する関係と比べると、距離による減衰は緩やかです。
電位と電界の距離依存性の違い
電界 \(E \propto \frac{1}{r^2}\)(距離の二乗に反比例)
電位 \(V \propto \frac{1}{r}\)(距離に反比例)
例題:点電荷による電位の計算
点電荷 \(q = 3 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) から \(r = 0.05 \, \mathrm{m}\) 離れた点における電位を求めよ。無限遠点の電位を 0 V とする。
解答:
\begin{align*} V &= k \frac{q}{r} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{3 \times 10^{-9}}{0.05} \\ &= 9 \times 10^9 \times 6 \times 10^{-8} \\ &= 5.4 \times 10^2 \, \mathrm{V} = 540 \, \mathrm{V} \end{align*}したがって、電位は 540 V となります。
電位差(Potential Difference)は、2点間の電位の差であり、一般的に電圧(Voltage)と呼ばれます。電位差は、電荷を一方の点から他方の点へ移動させるために必要な単位電荷あたりの仕事量を表します。
ここで:
電位差(電圧)は、電気回路において電流を駆動する「力」の役割を果たします。例えば、1.5 V の乾電池は、正極と負極の間に 1.5 V の電位差を生成し、この電位差が電流を駆動します。
仕事と電位差の関係
電荷 \(q\) を点 A から点 B へ移動させるために必要な仕事 \(W\) は、以下の式で与えられます:
電位差(電圧)の単位「ボルト」は、「1 クーロンの電荷を移動させるために必要な 1 ジュールの仕事」と定義されています(\(1 \, \mathrm{V} = 1 \, \mathrm{J/C}\))。
例題:電位差と仕事
電位が 200 V の点から電位が 50 V の点へ、\(q = 2 \times 10^{-6} \, \mathrm{C}\) の電荷を移動させるとき、必要な仕事を求めよ。また、この移動は自発的か非自発的か判断せよ。
解答:
電位差は:
必要な仕事は:
\[W = qV_{AB} = 2 \times 10^{-6} \times 150 = 3 \times 10^{-4} \, \mathrm{J}\]高電位から低電位への移動なので、仕事の値は正になります。これは、この過程でエネルギーが放出されることを意味します。つまり、この移動は自発的に起こります(正電荷が高電位から低電位へ自然に流れる)。
等電位面(Equipotential Surface)とは、同じ電位を持つ点を結んだ面のことです。等電位面は以下の特徴を持っています:
等電位面の形状
点電荷の場合、等電位面は電荷を中心とする同心球面となります。2つの異符号の点電荷(電気双極子)の場合、等電位面は複雑な形状になりますが、双極子から十分離れた場所では近似的に球面になります。均一な電界中(例:平行平板間)では、等電位面は平板に平行な平面となります。
例題:点電荷の等電位面
点電荷 \(q = 5 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) がある。電位が 300 V となる点電荷からの距離を求めよ。
解答:
点電荷による電位の式から:
この式を \(r\) について解くと:
\begin{align*} r &= k \frac{q}{V} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{5 \times 10^{-9}}{300} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{5}{3} \times 10^{-9-2} \\ &= 9 \times \frac{5}{3} \times 10^{-2} \\ &= 15 \times 10^{-2} = 0.15 \, \mathrm{m} = 15 \, \mathrm{cm} \end{align*}したがって、電位が 300 V となるのは、点電荷から半径 15 cm の球面上のすべての点です。これが等電位面を形成します。
電位の基礎まとめ
電界と電位は密接に関連しており、電界は電位の空間的な変化率(勾配)の負として定義されます:
ここで、\(\nabla\)(ナブラ)は勾配演算子であり、直交座標系(\(x\), \(y\), \(z\))では以下のように表されます:
\[\nabla = \frac{\partial}{\partial x}\hat{x} + \frac{\partial}{\partial y}\hat{y} + \frac{\partial}{\partial z}\hat{z}\]したがって、電界の各成分は以下のように表されます:
\[E_x = -\frac{\partial V}{\partial x}, \quad E_y = -\frac{\partial V}{\partial y}, \quad E_z = -\frac{\partial V}{\partial z}\]この関係式から、以下の重要な性質が導かれます:
電界と電位の符号関係
電界と電位の関係式に負号があることに注意が必要です。これは、正電荷が電位の高い領域から低い領域へ移動する傾向があることを反映しています。例えば、\(x\) 軸方向に電位が増加する場合(\(\frac{\partial V}{\partial x} > 0\))、電界の \(x\) 成分は負(\(E_x < 0\))になり、電界は \(x\) 軸の負の方向を指します。
電界が与えられた場合、電位を求めるには電界の線積分を計算します:
ここで:
電界が保存場である場合(静電場はこれに該当)、線積分の結果は経路に依存せず、始点と終点のみに依存します。これは、静電場において閉経路に沿った電界の線積分が常に 0 になることを意味します:
例題:一様な電界中での電位
空間に一様な電界 \(\vec{E} = 2000 \, \hat{x} \, \mathrm{V/m}\) が存在する。原点 \(O(0, 0, 0)\) の電位を 0 V とするとき、点 \(P(3, 0, 0)\) における電位を求めよ。
解答:
原点から点 \(P\) までの電位差は、電界の線積分として計算できます:
一様な電界 \(\vec{E} = 2000 \, \hat{x} \, \mathrm{V/m}\) 中で、\(x\) 軸に沿った積分を行います:
\begin{align*} V(P) - 0 &= -\int_{0}^{3} 2000 \, dx \\ V(P) &= -2000 \times 3 \\ &= -6000 \, \mathrm{V} = -6 \, \mathrm{kV} \end{align*}したがって、点 \(P(3, 0, 0)\) における電位は \(-6 \, \mathrm{kV}\) です。負の値になるのは、正の \(x\) 方向に電界があるため、電位は \(x\) の増加とともに減少するからです。
電位の概念はエネルギー保存則と密接に関連しています。静電場において、電荷の運動に関するエネルギー保存則は以下のように表されます:
ここで:
この式は、電荷が高電位から低電位へ移動するとき、電位エネルギーの減少分が運動エネルギーの増加に変換されることを示しています。
電位差と加速
荷電粒子が電位差 \(\Delta V\) を通過するとき、粒子は以下のエネルギーを得ます:
例えば、電子(電荷 \(e = 1.602 \times 10^{-19} \, \mathrm{C}\))が 1000 V の電位差を通過すると、1000 eV(電子ボルト)のエネルギーを得ます。1 eV = \(1.602 \times 10^{-19} \, \mathrm{J}\) です。
例題:電位差と粒子の加速
最初静止していた電子(電荷 \(e = -1.602 \times 10^{-19} \, \mathrm{C}\)、質量 \(m_e = 9.11 \times 10^{-31} \, \mathrm{kg}\))が、電位 0 V の点から電位 -200 V の点まで移動した。最終的な電子の速度を求めよ。
解答:
エネルギー保存則より:
ここで、\(V(A) = 0 \, \mathrm{V}\)、\(V(B) = -200 \, \mathrm{V}\)、\(v_A = 0\) です。
\begin{align*} (-1.602 \times 10^{-19})[0 - (-200)] &= \frac{1}{2}(9.11 \times 10^{-31})v_B^2 - 0 \\ (-1.602 \times 10^{-19}) \times 200 &= \frac{1}{2}(9.11 \times 10^{-31})v_B^2 \\ -3.204 \times 10^{-17} &= \frac{1}{2}(9.11 \times 10^{-31})v_B^2 \\ \end{align*}電子は負電荷なので、電位が低下する方向に移動すると、エネルギーを失うのではなく、実際には得ることに注意してください。したがって:
\begin{align*} 3.204 \times 10^{-17} &= \frac{1}{2}(9.11 \times 10^{-31})v_B^2 \\ v_B^2 &= \frac{2 \times 3.204 \times 10^{-17}}{9.11 \times 10^{-31}} \\ &= \frac{6.408 \times 10^{-17}}{9.11 \times 10^{-31}} \\ &= 7.034 \times 10^{13} \\ v_B &= \sqrt{7.034 \times 10^{13}} \\ &= 8.387 \times 10^6 \, \mathrm{m/s} \approx 8.4 \times 10^6 \, \mathrm{m/s} \end{align*}したがって、電子の最終速度は約 \(8.4 \times 10^6 \, \mathrm{m/s}\) となります。
電界と電位の関係まとめ
導体は自由電子を持ち、電子が自由に移動できる物質です。静電平衡状態にある導体には以下の特性があります:
導体の静電遮蔽効果
導体内部の電界がゼロという性質は、ファラデーケージ(Faraday cage)として知られる静電遮蔽の原理の基礎となっています。導体の殻で囲まれた空間は、外部の電界から保護されます。これは、雷から保護するための避雷針や、電磁波を遮断するための金属スクリーンなど、様々な応用があります。
コンデンサ(Capacitor)は、電荷を蓄積する電子部品です。最も基本的なコンデンサは、絶縁体(誘電体)を挟んだ2枚の導体板から構成されます。
静電容量(Capacitance)は、コンデンサが蓄えることができる電荷量の尺度であり、電荷量 \(Q\) を電位差 \(V\) で割った値として定義されます:
ここで:
平行平板コンデンサの静電容量は以下の式で与えられます:
ここで:
例題:平行平板コンデンサの静電容量
平行平板コンデンサの平板面積が \(A = 0.01 \, \mathrm{m^2}\)、平板間の距離が \(d = 0.5 \, \mathrm{mm}\)、誘電体の比誘電率が \(\varepsilon_r = 4.5\) である。このコンデンサの静電容量と、200 V の電圧を加えたときに蓄えられる電荷量を求めよ。
解答:
静電容量の計算:
蓄えられる電荷量の計算:
\begin{align*} Q &= CV \\ &= 7.965 \times 10^{-10} \times 200 \\ &= 1.593 \times 10^{-7} \, \mathrm{C} \approx 159.3 \, \mathrm{nC} \end{align*}したがって、このコンデンサの静電容量は約 796.5 pF であり、200 V の電圧を加えたときに蓄えられる電荷量は約 159.3 nC です。
電界と電位の概念は、様々な電気機器や計測器の動作原理の基礎となっています:
電子顕微鏡の加速電圧と電子の速度
透過型電子顕微鏡(TEM)では、電子を 100 kV 程度の電位差で加速します。このとき、電子は光速の約 50% まで加速されます。この高速電子を試料に当てることで、光学顕微鏡よりもはるかに高い分解能で観察が可能になります。走査型電子顕微鏡(SEM)では、10〜30 kV 程度の加速電圧が一般的です。
電界と電位の理解は、電気設備の安全設計と保守に重要です:
感電と電位差
人体を通過する電流の大きさは、接触した2点間の電位差と人体の電気抵抗(通常 1000〜100,000 Ω)に依存します。50 V 以上の電位差は危険と考えられ、100 mA 以上の電流は心室細動を引き起こす可能性があります。第三種電気主任技術者は、これらの安全基準を理解し、適切な安全対策を施す責任があります。
送電線の安全距離
高圧送電線の周りには強い電界が存在します。電気事業法施行規則では、送電線と建物などの構造物との最小距離が規定されています。例えば、特別高圧架空電線(7,000 V 超過)と建造物の水平距離は 3.0 m 以上必要です。これは、送電線からの放電や誘導電圧による事故を防ぐためです。
電界と電位の応用まとめ
問題1:点電荷による電界と電位
点電荷 \(q = 5 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) から \(r = 0.2 \, \mathrm{m}\) 離れた点における電界の大きさと電位を求めよ。なお、無限遠点の電位を 0 V とする。
解答:
点電荷による電界の大きさは次式で計算できます:
\[E = k \frac{|q|}{r^2}\]ここで、\(k = 9 \times 10^9 \, \mathrm{N \cdot m^2/C^2}\) です。
\begin{align*} E &= 9 \times 10^9 \times \frac{5 \times 10^{-9}}{(0.2)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{5 \times 10^{-9}}{0.04} \\ &= 9 \times 10^9 \times 1.25 \times 10^{-7} \\ &= 1.125 \times 10^3 \, \mathrm{V/m} = 1125 \, \mathrm{V/m} \end{align*}点電荷による電位は次式で計算できます:
\[V = k \frac{q}{r}\] \begin{align*} V &= 9 \times 10^9 \times \frac{5 \times 10^{-9}}{0.2} \\ &= 9 \times 10^9 \times 2.5 \times 10^{-8} \\ &= 225 \, \mathrm{V} \end{align*}したがって、電界の大きさは 1125 V/m であり、電位は 225 V です。
点電荷が正電荷なので、電界の方向は点電荷から外向きです。
問題2:平行平板間の電界と電位
2枚の平行平板が \(d = 5 \, \mathrm{mm}\) の間隔で配置されている。一方の平板に \(+100 \, \mathrm{V}\)、もう一方の平板に \(-100 \, \mathrm{V}\) の電位を与えた。平板間の電界の大きさと向き、および平板間の任意の点 \(x\)(\(0 \leq x \leq d\)、\(x = 0\) が \(+100 \, \mathrm{V}\) の平板の位置)における電位の式を求めよ。
解答:
平行平板間の電位差は \(\Delta V = (+100) - (-100) = 200 \, \mathrm{V}\) です。平行平板間の電界は一様であり、その大きさは電位差を平板間の距離で割ることで求められます:
\begin{align*} E &= \frac{|\Delta V|}{d} \\ &= \frac{200}{5 \times 10^{-3}} \\ &= 4 \times 10^4 \, \mathrm{V/m} = 40 \, \mathrm{kV/m} \end{align*}電界の向きは、高電位側(\(+100 \, \mathrm{V}\)の平板)から低電位側(\(-100 \, \mathrm{V}\)の平板)へ向かいます。つまり、\(x\) 軸の正の方向を向きます。
平行平板間の電位は、\(x\) の線形関数として表されます:
\begin{align*} V(x) &= V_0 + \frac{\Delta V}{d}x \\ &= 100 + \frac{-200}{5 \times 10^{-3}}x \\ &= 100 - 4 \times 10^4 \cdot x \end{align*}ここで、\(V_0 = +100 \, \mathrm{V}\) は \(x = 0\) における電位です。
したがって、平板間の電界の大きさは 40 kV/m で、\(x\) 軸の正の方向を向いています。また、点 \(x\) における電位は \(V(x) = 100 - 4 \times 10^4 \cdot x \, \mathrm{V}\)(ただし、\(x\) の単位は m)で与えられます。
問題3:電荷の移動と仕事
電界 \(\vec{E} = 3000 \, \hat{x} + 2000 \, \hat{y} \, \mathrm{V/m}\) 中で、点 A(0, 0, 0) から点 B(0.1, 0.2, 0) まで電荷 \(q = 2 \times 10^{-6} \, \mathrm{C}\) を移動させるとき、外部から必要な仕事を求めよ。
解答:
外部から必要な仕事は、電界による力が電荷に対してする仕事の負として計算できます。電界による力がする仕事は、電界と変位の線積分と電荷の積として表されます:
\[W_{\text{ext}} = -W_{\text{field}} = -q\int_A^B \vec{E} \cdot d\vec{r}\]この問題では電界が一様なので、積分は以下のように簡単化できます:
\begin{align*} W_{\text{ext}} &= -q[\vec{E} \cdot (\vec{r}_B - \vec{r}_A)] \\ &= -q[E_x(x_B - x_A) + E_y(y_B - y_A) + E_z(z_B - z_A)] \\ &= -q[3000 \times 0.1 + 2000 \times 0.2 + 0] \\ &= -q[300 + 400] \\ &= -(2 \times 10^{-6}) \times 700 \\ &= -1.4 \times 10^{-3} \, \mathrm{J} = -1.4 \, \mathrm{mJ} \end{align*}結果が負になったということは、外部から仕事をする必要がなく、むしろシステムが外部に対して 1.4 mJ の仕事をすることを意味します。つまり、電荷は自発的に点 A から点 B へ移動します。これは、正電荷が電界の方向に移動する傾向があるためです。
したがって、外部から必要な仕事は 0 J(仕事は不要)であり、むしろ電荷の移動によって 1.4 mJ のエネルギーが取り出せることになります。
第三種電気主任技術者試験 過去問(類似問題)
半径 \(R = 10 \, \mathrm{cm}\) の導体球があり、電荷 \(Q = 2 \times 10^{-8} \, \mathrm{C}\) が一様に分布している。
(1) 球の中心から半径 \(r = 5 \, \mathrm{cm}\) の点における電界の大きさを求めよ。
(2) 球の中心から半径 \(r = 20 \, \mathrm{cm}\) の点における電界の大きさを求めよ。
(3) 球の中心から球の表面までの電位の変化を求めよ。ただし、無限遠点の電位を 0 V とする。
解答:
(1) 球の内部(\(r < R\))における電界
導体球内部の電荷が一様に分布している場合、球の中心から半径 \(r\) の点における電界の大きさは次の式で与えられます:
\[E_{\text{内部}} = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{Qr}{R^3}\]ここで、\(r\) は球の中心からの距離、\(R\) は球の半径、\(Q\) は全電荷です。これを計算します:
\begin{align*} E_{\text{内部}} &= \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{Qr}{R^3} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{2 \times 10^{-8} \times 0.05}{(0.1)^3} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{10^{-9}}{10^{-3}} \\ &= 9 \times 10^3 \, \mathrm{V/m} = 9 \, \mathrm{kV/m} \end{align*}したがって、\(r = 5 \, \mathrm{cm}\) の点における電界の大きさは 9 kV/m です。
(2) 球の外部(\(r > R\))における電界
球の外部では、全電荷 \(Q\) が球の中心に集中しているかのように振る舞います(ガウスの法則による)。したがって、点電荷による電界の式を用いて:
\[E_{\text{外部}} = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{Q}{r^2}\] \begin{align*} E_{\text{外部}} &= 9 \times 10^9 \times \frac{2 \times 10^{-8}}{(0.2)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{2 \times 10^{-8}}{0.04} \\ &= 9 \times 10^9 \times 5 \times 10^{-7} \\ &= 4.5 \times 10^3 \, \mathrm{V/m} = 4.5 \, \mathrm{kV/m} \end{align*}したがって、\(r = 20 \, \mathrm{cm}\) の点における電界の大きさは 4.5 kV/m です。
(3) 球の中心から表面までの電位変化
球の内部(\(r < R\))における電位は次の式で与えられます:
\[V_{\text{内部}}(r) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \left[ \frac{Q}{2R} \left(3 - \frac{r^2}{R^2}\right) \right]\]球の中心(\(r = 0\))の電位は:
\begin{align*} V_{\text{中心}} &= \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{3Q}{2R} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{3 \times 2 \times 10^{-8}}{2 \times 0.1} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{6 \times 10^{-8}}{0.2} \\ &= 9 \times 10^9 \times 3 \times 10^{-7} \\ &= 2.7 \times 10^3 \, \mathrm{V} = 2.7 \, \mathrm{kV} \end{align*}球の表面(\(r = R\))の電位は、外部の電位式から求められます:
\[V_{\text{外部}}(r) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{Q}{r}\]\(r = R\) のとき:
\begin{align*} V_{\text{表面}} &= \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \frac{Q}{R} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{2 \times 10^{-8}}{0.1} \\ &= 9 \times 10^9 \times 2 \times 10^{-7} \\ &= 1.8 \times 10^3 \, \mathrm{V} = 1.8 \, \mathrm{kV} \end{align*}したがって、球の中心から表面までの電位の変化は 2.7 kV - 1.8 kV = 0.9 kV(= 900 V)です。
第三種電気主任技術者試験 過去問(類似問題)
真空中において、点 A に固定された点電荷 \(q_A = 3 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) と、点 B に固定された点電荷 \(q_B = -5 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) がある。A と B の間の距離は 6 cm である。
(1) 点 A と点 B を結ぶ直線上で、点 A から点 B に向かって 2 cm の位置にある点 P における電界の大きさと向きを求めよ。
(2) 点 P における電位を求めよ。ただし、無限遠点の電位を 0 V とする。
解答:
(1) 点 P における電界
まず、点 A の電荷 \(q_A\) による点 P での電界 \(\vec{E}_A\) を計算します:
\begin{align*} E_A &= k \frac{|q_A|}{r_A^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{3 \times 10^{-9}}{(0.02)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{3 \times 10^{-9}}{4 \times 10^{-4}} \\ &= 9 \times 10^9 \times 7.5 \times 10^{-6} \\ &= 6.75 \times 10^4 \, \mathrm{V/m} \end{align*}\(q_A\) は正電荷なので、\(\vec{E}_A\) の向きは点 A から点 P へ向かう方向(AB の方向)です。
次に、点 B の電荷 \(q_B\) による点 P での電界 \(\vec{E}_B\) を計算します。点 P から点 B までの距離は 6 cm - 2 cm = 4 cm です:
\begin{align*} E_B &= k \frac{|q_B|}{r_B^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{5 \times 10^{-9}}{(0.04)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{5 \times 10^{-9}}{1.6 \times 10^{-3}} \\ &= 9 \times 10^9 \times 3.125 \times 10^{-6} \\ &= 2.8125 \times 10^4 \, \mathrm{V/m} \end{align*}\(q_B\) は負電荷なので、\(\vec{E}_B\) の向きは点 P から点 B へ向かう方向(BA の反対方向)です。
点 P における全電界 \(\vec{E}\) は、\(\vec{E}_A\) と \(\vec{E}_B\) のベクトル和です。ここでは、A から B への方向を正とします:
\begin{align*} E &= E_A + E_B \\ &= 6.75 \times 10^4 + 2.8125 \times 10^4 \\ &= 9.5625 \times 10^4 \, \mathrm{V/m} \approx 9.56 \times 10^4 \, \mathrm{V/m} \end{align*}したがって、点 P における電界の大きさは約 95.6 kV/m であり、A から B への方向を向いています。
(2) 点 P における電位
点 P における電位は、\(q_A\) と \(q_B\) による電位の和として計算できます:
\begin{align*} V_P &= k\left(\frac{q_A}{r_A} + \frac{q_B}{r_B}\right) \\ &= 9 \times 10^9 \times \left(\frac{3 \times 10^{-9}}{0.02} + \frac{-5 \times 10^{-9}}{0.04}\right) \\ &= 9 \times 10^9 \times (1.5 \times 10^{-7} - 1.25 \times 10^{-7}) \\ &= 9 \times 10^9 \times 2.5 \times 10^{-8} \\ &= 2.25 \times 10^2 \, \mathrm{V} = 225 \, \mathrm{V} \end{align*}したがって、点 P における電位は 225 V です。
演習問題のポイント
本ページでは、第三種電気主任技術者試験の重要分野である「電界と電位」について学習しました。電界と電位の基本概念、それらの計算方法、相互関係、そして実際の応用まで幅広く解説しています。
重要ポイントの要約
• 電界は空間各点で単位電荷が受ける力を表すベクトル量で、単位は V/m または N/C
• 電位は単位電荷あたりの電位エネルギーを表すスカラー量で、単位は V
• 点電荷による電界は距離の二乗に反比例(\(E \propto \frac{1}{r^2}\))
• 点電荷による電位は距離に反比例(\(V \propto \frac{1}{r}\))
• 電界は電位の勾配の負として定義される(\(\vec{E} = -\nabla V\))
• 電位差(電圧)は電荷を移動させるために必要な仕事量と関連(\(W = qV_{AB}\))
• 導体内部の電界はゼロで、導体全体が等電位になる
• コンデンサの静電容量は蓄えられる電荷量と電圧の比(\(C = \frac{Q}{V}\))
これらの概念は、電気磁気学の基礎であり、後続の学習単元である「電磁誘導」や「電磁波」などの理解にも不可欠です。特に、電界と電位の関係、エネルギーの観点からの理解は、電気回路の挙動を理解する上でも重要な基盤となります。
また、第三種電気主任技術者試験においては、これらの基本概念に基づいた計算問題が頻出します。特に、点電荷系の電界・電位の計算、平行平板コンデンサの静電容量、電荷の移動に伴う仕事などは、繰り返し出題される重要テーマです。
次の学習では、「電磁誘導」について学びます。これは、変化する磁界が電界を生じさせる現象で、発電機やトランスなどの動作原理の基礎となる重要な概念です。電界と電位の理解があれば、電磁誘導の概念もより理解しやすくなるでしょう。