【第三種電気主任技術者試験】原子力発電の基礎知識と対策 - BWR・PWRの比較から炉心溶融まで

目次

1. イントロダクション

原子力発電は、ウランなどの原子核が分裂する際に発生する熱エネルギーを利用して電気を生み出す発電方式です。1950年代から商業利用が始まり、現在では世界の電力供給における重要な役割を担っています。

原子力発電所
イメージ図: 原子力発電所の外観

原子力発電の重要性

原子力発電は、化石燃料に比べて発電時のCO₂排出量が極めて少なく、気候変動対策の観点から注目されています。また、燃料であるウランは少量で大量のエネルギーを得られるため、エネルギー密度が非常に高いという特徴があります。

日常生活や産業での応用例

原子力発電所で作られた電気は、一般家庭や工場、オフィスビルなど様々な場所で使用されています。特に、安定した大量の電力供給が必要な製鉄所やアルミニウム精錬所などの重工業において重要な役割を果たしています。また、電力の安定供給を通じて、現代の情報社会を支える基盤となっています。

第三種電気主任技術者試験における位置づけ

第三種電気主任技術者試験の電力科目において、原子力発電は重要な出題分野の一つです。特に「発電」の分野では、火力発電、水力発電と並んで頻出の内容となっています。試験では原子力発電の基本原理、原子炉の種類と特徴、安全システム、放射線管理などの基礎知識が問われます。

学習の進め方

原子力発電について学ぶ際は、まず基本原理を理解し、次に主要な構成要素と機能、安全対策について学びます。その後、より詳細な技術的内容や運用面について理解を深めていきましょう。本ページでは、第三種電気主任技術者試験で問われる範囲を中心に解説していきます。

2. 基礎概念

2.1 核分裂反応の基本原理

原子力発電の中心となるのは、ウラン235などの重い原子核が分裂する「核分裂反応」です。この反応によって大量のエネルギーが放出されます。

核分裂反応のイメージ
イメージ図: 核分裂反応のイメージ

核分裂反応の仕組み

ウラン235の原子核に中性子が衝突すると、原子核は不安定になり分裂します。この分裂により、2〜3個の中性子が放出されると同時に、膨大なエネルギーが熱として発生します。放出された中性子が別のウラン235に衝突して次々と核分裂が起こる連鎖反応により、継続的にエネルギーを取り出すことができます。

核分裂の際に発生するエネルギーの大部分(約83%)は、分裂生成物の運動エネルギーとして現れます。残りは即発γ線や中性子の運動エネルギー、分裂生成物のβ崩壊やγ崩壊に伴うエネルギーなどの形で放出されます。

核分裂の制御

原子炉内では、核分裂によって放出される中性子の数を制御することが重要です。この制御には主に以下の要素が関わっています。

  • 制御棒: 中性子を吸収する性質を持つホウ素やカドミウム、ハフニウムなどの材料でできており、原子炉内に挿入する深さを調整することで、核分裂の連鎖反応の速度を制御します。制御棒は原子炉の出力調整や緊急停止の際に重要な役割を果たします。
  • 減速材: 核分裂で放出される高速中性子(約2MeV)をウラン235との反応が起きやすい熱中性子(約0.025eV)に減速します。軽水炉では水(H₂O)が減速材として使用されますが、重水炉では重水(D₂O)、黒鉛減速炉では黒鉛が使用されます。減速材の性能は減速能中性子の吸収断面積によって評価されます。
  • 反射材: 炉心から漏れ出す中性子を炉心内に反射して戻す役割を持ちます。減速材と同じ物質が使われることが多く、これにより中性子の利用効率が向上します。
  • 燃料の配置: 燃料集合体の配置パターンも核分裂の制御に影響します。燃料の濃縮度や配置を調整することで、炉心内の中性子束分布を最適化します。
原子炉のイメージ
イメージ図: 原子炉の内部

実効増倍率と臨界状態

原子炉の核分裂連鎖反応の状態を表す重要な指標が「実効増倍率(keff)」です。

  • keff = 1:臨界状態(安定した出力を維持)
  • keff > 1:超臨界状態(出力が増加)
  • keff < 1:未臨界状態(出力が減少)

原子炉の運転では、通常、keffを僅かに1より大きい値(例:1.001)に調整して徐々に出力を上げ、定格出力に達したら正確に1に調整して運転を継続します。

2.2 エネルギー変換の流れ

原子力発電所では、核分裂によって発生した熱エネルギーが最終的に電気エネルギーに変換されるまでに、以下の段階を経ます。

  1. 核分裂による熱の発生: 原子炉内でウラン燃料の核分裂により熱が発生します。燃料棒内の温度は中心部で約1500℃に達します。
  2. 熱の伝達: 冷却材(通常は水)が炉心を循環して熱を取り出します。原子炉の種類により、この段階の仕組みが異なります:
    • BWRでは冷却材が直接沸騰して蒸気になります(約7MPa、285℃)。
    • PWRでは高圧の冷却材(約15MPa、320℃)が蒸気発生器を通じて二次系に熱を伝えます。
  3. 蒸気によるタービン回転: 高温高圧の蒸気がタービンを回転させます。タービンは高圧タービン、中圧タービン、低圧タービンなどの段階に分かれており、効率よくエネルギーを取り出します。
  4. 発電機による電気への変換: タービンの回転が発電機により電気エネルギーに変換されます。通常、三相交流発電機が使用され、数百MVA〜1000MVA級の発電容量を持ちます。
  5. 冷却と循環: タービンを通過した蒸気は復水器で冷却・凝縮され、再び水になります。この水はポンプで圧力を上げられ、熱交換器(給水加熱器)で予熱された後、再び原子炉(BWR)または蒸気発生器(PWR)に送られます。

例: 熱効率と放熱量

100万kW級の原子力発電所では、原子炉で約300万kWの熱出力が発生します。熱効率は約33%のため、100万kWの電気出力が得られる一方、約200万kWの熱が冷却水を通じて環境中に放出されます。

熱効率が火力発電(約40〜45%)より低い理由は、安全性確保のため蒸気温度・圧力を低く設定していることと、プラント内での所内電力消費が大きいためです。PWRの蒸気温度は約280℃、BWRは約290℃であり、最新の石炭火力発電(約600℃)と比べると低温です。

2.3 原子炉の種類と特徴

原子炉にはいくつかの種類がありますが、日本で主に使用されているのは「軽水炉」です。軽水炉はさらに「沸騰水型原子炉(BWR)」と「加圧水型原子炉(PWR)」の2種類に大別されます。

軽水炉における水の二重の役割

軽水炉では、通常の水(軽水)が「冷却材」と「減速材」の二重の役割を果たしています。水は熱を効率よく取り出す優れた冷却材であると同時に、水素原子の存在により中性子を効果的に減速する性能も持っています。この二重の役割が軽水炉の特徴であり、世界中で広く採用されている理由の一つです。

沸騰水型原子炉(BWR: Boiling Water Reactor)の特徴

BWRは日本の原子力発電所の約3分の2を占める主要な炉型です。

BWRの主な特徴
  • 直接サイクル方式: 原子炉内で冷却材(水)が直接沸騰して蒸気となり、その蒸気が直接タービンを回す仕組みです。
  • 運転圧力: 約7MPa(約70気圧)と比較的低圧です。
  • 蒸気温度: 約285℃の飽和蒸気が発生します。
  • 構造の特徴:
    • 原子炉圧力容器内に燃料集合体、制御棒、再循環ポンプ(内蔵型)などが収納されています。
    • 制御棒は原子炉底部から挿入される構造(下部挿入方式)です。
    • 蒸気分離器、蒸気乾燥器が圧力容器上部に設置されています。
  • 利点:
    • 構造がシンプルで建設コストが比較的低い
    • 蒸気発生器が不要
    • 一次系の容積が小さく、冷却材喪失事故時の対応がしやすい
  • 課題:
    • 放射化した蒸気がタービンに流れるため、タービン建屋も放射線管理区域となる
    • 圧力容器内の機器へのアクセスが難しく、点検・保守が複雑
    • 制御棒駆動機構が圧力容器の下部にあるため、重力による緊急挿入が難しい(水圧を利用)
沸騰水型原子炉
イメージ図: 沸騰水型原子炉

加圧水型原子炉(PWR: Pressurized Water Reactor)の特徴

PWRは世界的に最も多く採用されている炉型で、日本でも約3分の1の原子力発電所で採用されています。

PWRの主な特徴
  • 間接サイクル方式: 高圧の一次冷却系で原子炉の熱を取り出し、蒸気発生器を介して二次冷却系に熱を伝えます。二次系で発生した蒸気でタービンを回します。
  • 運転圧力: 一次系は約15MPa(約150気圧)と高圧で、水の沸騰を防止します。
  • 冷却材温度: 一次系の水温は入口で約290℃、出口で約320℃です。
  • 蒸気発生器: 一次系と二次系の熱交換を行い、二次系で約280℃、6MPa程度の蒸気を発生させます。
  • 構造の特徴:
    • 原子炉圧力容器には燃料集合体と制御棒が収納されています。
    • 制御棒は原子炉上部から挿入される構造(上部挿入方式)です。
    • 一次冷却系には加圧器が設置され、系統圧力を一定に保ちます。
    • 一次冷却材ポンプ、蒸気発生器は原子炉容器の外部に設置されています。
  • 利点:
    • 一次系と二次系が分離されているため、タービン系統に放射性物質が混入しにくく、タービン建屋は非管理区域とできる
    • 制御棒が上部から挿入されるため、電源喪失時に重力で自然落下する設計が可能
    • 一次系が高圧のため、沸騰による急激な出力変動が少なく、安定した運転が可能
  • 課題:
    • 蒸気発生器や加圧器など機器が多く、構造が複雑で建設コストが高い
    • 一次系の容積が大きく、冷却材喪失事故時の対応が複雑
    • 蒸気発生器の伝熱管の損傷リスクがある
加圧水型原子炉
イメージ図: 加圧水型原子炉

BWRとPWRの比較表(試験頻出ポイント)

比較項目 BWR(沸騰水型原子炉) PWR(加圧水型原子炉)
サイクル方式 直接サイクル 間接サイクル
一次系圧力 約7MPa(70気圧) 約15MPa(150気圧)
冷却材の状態 原子炉内で沸騰 沸騰せず(加圧状態)
蒸気発生器 なし(原子炉内で直接蒸気発生) あり(一次系と二次系の熱交換)
制御棒の挿入方向 下部から挿入 上部から挿入
タービン系統 放射化した蒸気が流れる 放射性物質が混入しにくい
加圧器 なし あり(圧力制御用)
タービン建屋 放射線管理区域 非管理区域
系統構成 比較的シンプル やや複雑

その他の原子炉

世界各国で様々な型式の原子炉が開発・運用されています。第三種電気主任技術者試験では、軽水炉が中心ですが、以下の原子炉についても基本的な知識が問われることがあります。

  • 重水炉(PHWR: Pressurized Heavy Water Reactor)
    • 減速材に重水(D₂O)を使用した原子炉
    • 天然ウラン(濃縮していないウラン)を燃料として使用可能
    • ウラン濃縮施設が不要というメリットがある
    • カナダのCANDU炉が代表例で、カナダやインドなどで採用
    • 運転中に燃料交換が可能(オンライン燃料交換)
  • 高速増殖炉(FBR: Fast Breeder Reactor)
    • 減速材を使用せず、高速中性子を利用する原子炉
    • ウラン238からプルトニウム239を生成(増殖)しながら発電
    • 理論上は使用した以上の燃料を生成可能
    • 冷却材には液体ナトリウムなどの液体金属を使用
    • 日本では「もんじゅ」が建設されたが、現在は廃止措置中
  • 高温ガス炉(HTGR: High Temperature Gas-cooled Reactor)
    • 冷却材にヘリウムガスを使用
    • 減速材に黒鉛を使用
    • 高温(約1000℃)の熱を取り出せるため、熱効率が高い
    • 発電以外に水素製造などの産業用熱源としても利用可能
    • 日本では高温工学試験研究炉(HTTR)で研究が進められている
  • 黒鉛減速炉(RBMK: Reaktor Bolshoy Moshchnosti Kanalniy)
    • 旧ソ連で開発された炉型で、チェルノブイリ原発で使用
    • 減速材に黒鉛、冷却材に軽水を使用
    • 正のボイド係数という安全上の問題点がある

原子炉の分類まとめ

原子炉は主に以下の要素で分類されます:

  • 中性子のエネルギー: 熱中性子炉、高速中性子炉
  • 減速材の種類: 軽水炉、重水炉、黒鉛炉
  • 冷却材の種類: 水冷却炉、ガス冷却炉、液体金属冷却炉
  • 用途: 発電用、研究用、船舶推進用など

現在、世界で運転中の原子炉の約80%は軽水炉(PWRとBWR)で、このうちPWRが約2/3を占めています。

3. 数式と理論

3.1 核エネルギーの計算(試験頻出分野)

核エネルギー計算の重要性

第三種電気主任技術者試験では、核分裂エネルギーの計算が頻出問題となっています。特に質量欠損からのエネルギー計算や、核分裂エネルギーと他のエネルギー源との比較問題が多く出題されます。

核分裂によって放出されるエネルギーを理解するためには、質量とエネルギーの等価性を示すアインシュタインの有名な方程式が基本となります。

質量エネルギー等価の法則

\[E = mc^2\]

ここで、\(E\) はエネルギー [J]、\(m\) は質量 [kg]、\(c\) は光速 [\(3.0 \times 10^8\) m/s] です。

核分裂反応では、分裂前の質量と分裂後の質量に差が生じます。この「質量欠損」がエネルギーに変換されます。ウラン235の核分裂では、質量の約0.1%がエネルギーに変換されます。

重要数値

  • 質量欠損の割合: ウラン235の核分裂では約0.1%(実際は0.087%程度)
  • 1個の核分裂で発生するエネルギー: 約200MeV(約3.2 × 10-11 J)
  • 光速: 3.0 × 108 m/s
  • アボガドロ数: 6.02 × 1023 個/mol
  • 1eV: 1.6 × 10-19 J
  • 1kWh: 3.6 × 106 J

典型的な計算パターン

試験では以下のような計算パターンが出題されます:

パターン1: 質量欠損からのエネルギー計算

問題例: 5kgのウラン燃料に含まれる3%のウラン235が全て核分裂し、0.1%の質量欠損が生じた場合に発生するエネルギーを求めよ。

解法:

\begin{align*} \text{ウラン235の質量} &= 5 \text{ kg} \times 0.03 = 0.15 \text{ kg}\\[10pt] \text{質量欠損} &= 0.15 \text{ kg} \times 0.001 = 1.5 \times 10^{-4} \text{ kg}\\[10pt] \text{発生エネルギー} &= mc^2\\[10pt] &= 1.5 \times 10^{-4} \text{ kg} \times (3 \times 10^8 \text{ m/s})^2\\[10pt] &= 1.5 \times 10^{-4} \times 9 \times 10^{16} \text{ J}\\[10pt] &= 1.35 \times 10^{13} \text{ J} \end{align*}

これをkWhに換算すると:

\begin{align*} \text{発生エネルギー} &= \frac{1.35 \times 10^{13} \text{ J}}{3.6 \times 10^6 \text{ J/kWh}}\\[10pt] &= 3.75 \times 10^6 \text{ kWh} = 3,750,000 \text{ kWh} \end{align*}

パターン2: 核分裂数からのエネルギー計算

問題例: 1molのウラン235が全て核分裂した場合に発生するエネルギーを求めよ。ただし1個の核分裂で約200MeVのエネルギーが放出されるものとする。

解法:

\begin{align*} \text{ウラン235の原子数} &= 1 \text{ mol} \times 6.02 \times 10^{23} \text{ 個/mol}\\[10pt] &= 6.02 \times 10^{23} \text{ 個}\\[10pt] \text{全エネルギー} &= 6.02 \times 10^{23} \text{ 個} \times 200 \text{ MeV/個}\\[10pt] &= 1.204 \times 10^{26} \text{ MeV} \end{align*}

これをジュールに換算すると:

\begin{align*} \text{全エネルギー} &= 1.204 \times 10^{26} \text{ MeV} \times 1.6 \times 10^{-19} \text{ J/eV} \times 10^6 \text{ eV/MeV}\\[10pt] &= 1.926 \times 10^{13} \text{ J} \end{align*}

さらにkWhに換算すると:

\begin{align*} \text{全エネルギー} &= \frac{1.926 \times 10^{13} \text{ J}}{3.6 \times 10^6 \text{ J/kWh}}\\[10pt] &\approx 5.35 \times 10^6 \text{ kWh} = 5,350,000 \text{ kWh} \end{align*}

パターン3: エネルギー等価の計算

問題例: 2kgのウラン燃料に含まれる4%のウラン235が核分裂し、0.1%の質量欠損が生じたときに発生するエネルギーと同量のエネルギーを、重油(発熱量40MJ/kg、密度0.9kg/L)の燃焼で得る場合に必要な重油の量[kL]を求めよ。

解法:

まず、核分裂で発生するエネルギーを計算します。

\begin{align*} \text{ウラン235の質量} &= 2 \text{ kg} \times 0.04 = 0.08 \text{ kg}\\[10pt] \text{質量欠損} &= 0.08 \text{ kg} \times 0.001 = 8 \times 10^{-5} \text{ kg}\\[10pt] \text{発生エネルギー} &= 8 \times 10^{-5} \text{ kg} \times (3 \times 10^8 \text{ m/s})^2\\[10pt] &= 8 \times 10^{-5} \times 9 \times 10^{16} \text{ J}\\[10pt] &= 7.2 \times 10^{12} \text{ J} \end{align*}

次に、同量のエネルギーを発生させるために必要な重油の量を計算します。

\begin{align*} \text{重油の必要量} &= \frac{7.2 \times 10^{12} \text{ J}}{40 \times 10^6 \text{ J/kg}}\\[10pt] &= 180,000 \text{ kg} \end{align*}

これを体積に換算します。

\begin{align*} \text{重油の体積} &= \frac{180,000 \text{ kg}}{0.9 \text{ kg/L}}\\[10pt] &= 200,000 \text{ L} = 200 \text{ kL} \end{align*}

計算のポイント

核エネルギー計算では以下のポイントに注意しましょう:

  • 単位の換算(特にeV→J、J→kWh)を正確に行う
  • 燃料中のウラン235の割合(濃縮度)を考慮する
  • 質量欠損の割合(約0.1%)を覚えておく
  • 比較問題では、他の燃料(石炭、石油など)の発熱量を覚えておく
  • 有効数字に注意し、最終的な答えは適切に丸める

実際の原子力発電所では、ウラン235の濃縮度は3〜5%程度で、全てのウラン235が核分裂するわけではありません。また、熱エネルギーから電気エネルギーへの変換効率も約30〜35%程度です。試験では、このような実際の原子力発電所の効率を考慮した問題も出題される場合があります。

チェレンコフ光 - 原子炉の特徴的な現象(補足知識)

原子炉や使用済燃料プールで観察される神秘的な青い光(チェレンコフ光)は、原子力発電施設で見られる最も視覚的に印象的な現象の一つです。この現象は、物理学者パーヴェル・チェレンコフによって発見され、その理論的解明に貢献したイリヤ・フランクとイゴール・タムとともに1958年にノーベル物理学賞を受賞しています。

原子炉のイメージ
イメージ図: 原子炉プールで観察されるチェレンコフ光
チェレンコフ光の物理学的説明
  • 発生メカニズム: 原子炉の炉心でチェレンコフ光が観測されるのは、核分裂反応で放出される高速の電子(ベータ線)や、ガンマ線による二次電子(コンプトン散乱や光電効果で発生)が、炉心周囲の水中で光よりも速く移動するためです。この現象は荷電粒子が媒質中で光速を超えたときに発生します。
  • 物理的原理: 相対性理論によれば、真空中では物質は光速(約3×10⁸ m/s)を超えることはできません。しかし、水などの媒質中では光の速度は遅くなります(水中の光速は真空中の約75%、約2.25×10⁸ m/s)。一方、高エネルギー荷電粒子は媒質中でも真空中の光速に近い速度を持つことができるため、媒質中の光速を超えることがあります。
  • 衝撃波の形成: 媒質中で光速を超えた荷電粒子は、航空機が音速を超えたときに衝撃波(ソニックブーム)を形成するのと類似した現象を引き起こします。この場合、電磁波の衝撃波が形成され、それがチェレンコフ光として観察されます。
  • 特徴的な青色: チェレンコフ光の特徴的な青色は、放出される電磁波のスペクトルが短波長側(青色やUV領域)で強度が高いためです。具体的には、放出強度が波長の二乗に反比例するという特性があります。
  • 放出角度: チェレンコフ光は粒子の進行方向に対して特定の角度で円錐状に放出されます。この角度は粒子の速度と媒質の屈折率によって決まり、角度を測定することで粒子のエネルギーを推定することも可能です。
原子力発電施設でのチェレンコフ光の観察例
  • 研究炉: 研究用原子炉のプールでは、運転中の炉心周辺に鮮やかな青いチェレンコフ光が観察されます。特に出力変更時には、光の強度の変化を視覚的に確認できます。
  • 使用済燃料プール: 使用済燃料プールでも、使用済燃料から放出される放射線によって同様の現象が起こります。燃料が比較的新しいほど放射能が強く、より明るいチェレンコフ光が観察されます。これにより、使用済燃料の冷却期間を視覚的に推測することも可能です。
  • 炉心観察: 一部の研究炉では、運転中の炉心を上部から観察することができ、チェレンコフ光の分布から中性子束の分布や制御棒の位置の影響を視覚的に確認できます。
チェレンコフ光の応用と意義
  • 放射線検出: チェレンコフ効果は高エネルギー物理学の実験で粒子検出に利用されています。特に、スーパーカミオカンデなどのニュートリノ検出器では、ニュートリノと物質の相互作用で生じる荷電粒子がチェレンコフ光を発生させ、それを検出する仕組みになっています。
  • 安全性の視覚的確認: チェレンコフ光の存在自体は危険ではなく、水が放射線に対する優れた遮蔽材として機能していることを示しています。実際、水中では放射線はほとんど吸収され、水面上での放射線量は非常に低くなっています。
  • 教育的価値: チェレンコフ光は、目に見えない放射線や複雑な物理現象を視覚的に体験できる貴重な例であり、原子力教育においても重要な役割を果たしています。
知識を深める: チェレンコフ光の条件

チェレンコフ光が発生する条件は以下の式で表されます:

\[v > \frac{c}{n}\]

ここで、\(v\) は荷電粒子の速度、\(c\) は真空中の光速、\(n\) は媒質の屈折率です。水の屈折率は約1.33なので、荷電粒子の速度が \(v > \frac{3 \times 10^8}{1.33} \approx 2.25 \times 10^8\) m/s を超えるとチェレンコフ光が発生します。

第三種電気主任技術者試験においてチェレンコフ光の詳細が直接問われることは無いですが、原子炉の運転状態や使用済燃料の管理に関連する基礎知識として理解しておくことは有用です。特に原子力発電所での実務に携わる場合、この現象を正しく理解していることは、施設の状態を視覚的に把握する一助となります。

3.2 原子炉物理の基礎

原子炉物理の詳細な数式は試験範囲外ですが、基本的な概念は理解しておく必要があります。

実効増倍率と臨界状態

原子炉の核分裂連鎖反応を特徴づける重要なパラメータが「実効増倍率」です。これは、一つの核分裂で発生した中性子が引き起こす次の核分裂の数を表します。

原子炉の運転状態は以下のように分類されます:

  • 臨界状態: 出力一定の状態。一定の連鎖反応が維持されている。
  • 超臨界状態: 出力が増加する状態。原子炉の起動時など。
  • 未臨界状態: 出力が減少する状態。原子炉の停止時など。

原子炉の運転では、制御棒の操作などにより実効増倍率を適切に調整し、安定した出力を維持します。起動時には一時的に超臨界状態にして出力を上昇させ、定格出力に達したら臨界状態を維持します。停止時には未臨界状態にして核分裂反応を止めます。

中性子の種類と原子炉の制御

核分裂で発生する中性子は、発生のタイミングによって「即発中性子」(核分裂と同時に発生)と「遅発中性子」(核分裂生成物の崩壊後に発生)に分けられます。遅発中性子は全体の約0.65%(ウラン235の場合)と少ないですが、原子炉の安定した制御を可能にする重要な役割を果たしています。原子炉は通常、この遅発中性子を利用して制御されています。

3.3 熱効率と出力計算

原子力発電所の熱効率は、投入された熱エネルギーのうち、電気エネルギーに変換される割合を表します。

\[\eta = \frac{W}{Q_1} \times 100 \text{ [\%]}\]

ここで、\(\eta\) は熱効率 [%]、\(W\) は正味仕事(電気出力)[J]、\(Q_1\) は投入熱量 [J] です。

原子力発電所の熱効率は、一般的に火力発電所より若干低く、約30〜35%程度です。これは主に、原子炉の安全性確保のため、蒸気の温度・圧力が火力発電所より低く設定されているためです。

例: 原子力発電所の熱出力と電気出力の関係

問題例: 熱効率が33%の原子力発電所で、電気出力100万kW(1000MW)を得るためには、どれだけの熱出力が必要か。

\begin{align*} \eta &= \frac{W}{Q_1} \times 100 \text{ [\%]}\\[10pt] 33 &= \frac{1000}{Q_1} \times 100\\[10pt] Q_1 &= \frac{1000 \times 100}{33}\\[10pt] &\approx 3030 \text{ [MW]} \end{align*}

つまり、約3030MWの熱出力が必要です。残りの約2030MWは、冷却水などを通じて環境中に放出されます。

発電所の熱効率比較

  • 原子力発電所: 約30〜35%
  • 従来型石炭火力発電所: 約40%
  • 超々臨界圧石炭火力発電所: 約45%
  • LNG複合サイクル発電: 約55〜60%

原子力発電所の熱効率が低い主な理由は、安全性確保のために蒸気条件(温度・圧力)を低く設定していることと、プラント内の所内電力消費が大きいことです。

3.3 熱効率と出力計算

原子力発電所の熱効率は、投入された熱エネルギーのうち、電気エネルギーに変換される割合を表します。

\[\eta = \frac{W}{Q_1} \times 100 \text{ [\%]}\]

ここで、\(\eta\) は熱効率 [%]、\(W\) は正味仕事(電気出力)[J]、\(Q_1\) は投入熱量 [J] です。

原子力発電所の熱効率は、一般的に火力発電所より若干低く、約30〜35%程度です。これは主に、原子炉の安全性確保のため、蒸気の温度・圧力が火力発電所より低く設定されているためです。

例: 原子力発電所の熱出力と電気出力の関係

熱効率が33%の原子力発電所で、電気出力100万kW(1000MW)を得るためには、どれだけの熱出力が必要でしょうか。

\begin{align*} \eta &= \frac{W}{Q_1} \times 100 \text{ [\%]}\\[10pt] 33 &= \frac{1000}{Q_1} \times 100\\[10pt] Q_1 &= \frac{1000 \times 100}{33}\\[10pt] &\approx 3030 \text{ [MW]} \end{align*}

つまり、約3030MWの熱出力が必要です。残りの約2030MWは、冷却水などを通じて環境中に放出されます。

原子炉の出力計算

原子炉の熱出力 \(P\) は、核分裂率 \(R\) と1回の核分裂で発生するエネルギー \(E_f\) の積で表されます。

\[P = R \times E_f\]

ここで、\(P\) は熱出力 [W]、\(R\) は核分裂率 [分裂/s]、\(E_f\) は1回の核分裂で発生するエネルギー [J/分裂] です。

ウラン235の1回の核分裂で発生するエネルギーは約200MeV(\(3.2 \times 10^{-11}\) J)です。

深層防護(多重防護)の考え方

深層防護とは、異常の発生防止、異常の拡大防止、事故の影響緩和という三段階の安全確保策を重層的に施す考え方です。何重もの安全対策を講じることで、単一の機器の故障や人的ミスが重大事故につながらないようにします。

フェールセーフ設計

原子力発電所は、万が一の故障や操作ミスが起きても安全側に作用するよう設計されています。例えば、制御棒は通常、電磁石で保持されており、電源喪失時には自動的に重力で炉心に落下し、原子炉を停止させる仕組みになっています。

非常用炉心冷却装置(ECCS)

原子炉冷却材喪失事故(LOCA: Loss Of Coolant Accident)などの緊急時に、炉心を冷却するための装置です。複数の独立したシステムから構成され、それぞれが単独でも炉心冷却機能を確保できるよう設計されています。

非常用ディーゼル発電機

外部電源喪失時にも原子炉の冷却や監視機能を維持するため、非常用ディーゼル発電機が設置されています。これらは通常、複数台が独立した系統として設置され、一台が故障しても残りで電力供給が可能なよう設計されています。

格納容器

原子炉圧力容器を覆う頑丈な構造物で、万一の事故時に放射性物質が外部に漏れ出すことを防ぐ役割を持ちます。通常、厚さ数十センチメートルの鋼鉄やコンクリート製で、気密性が確保されています。

原子力発電所の主な事故事象と安全対策

深層防護の概念と事故防止

原子力発電所の安全確保の考え方として「深層防護」の概念が重要です。

深層防護とは、安全確保のために複数の独立した防護レベルを設けることで、一つの防護レベルが破られても別の防護レベルが機能するようにする考え方です。具体的には以下の5つのレベルから構成されます:

  1. 第1の防護レベル: 異常の発生防止(信頼性の高い設計と建設、高品質の機器)
  2. 第2の防護レベル: 異常の拡大防止と事故への発展防止(異常検知システムと制御系の充実)
  3. 第3の防護レベル: 設計基準事故の影響緩和(非常用炉心冷却装置などの工学的安全施設)
  4. 第4の防護レベル: 過酷事故の進展防止と影響緩和(アクシデントマネジメント対策)
  5. 第5の防護レベル: 放射線影響の緩和(オフサイト緊急時対応)

炉心溶融に代表される過酷事故(シビアアクシデント)は、第1〜第3の防護レベルが全て機能喪失した場合に発生する事象です。第4の防護レベルとして、炉心溶融後の対策(代替注水、格納容器スプレイ、フィルタベントなど)が整備されています。

4.3 放射線管理

放射線の種類

放射線には主に以下の種類があり、それぞれ異なる性質と透過力を持っています。

放射線の単位

放射線に関する主な単位は以下の通りです。

線量限度

日本では、放射線業務従事者に対して、5年間で100mSv(ミリシーベルト)かつ1年間で50mSvを超えないという線量限度が法令で定められています。一般公衆に対しては、1年間で1mSvが線量限度とされています。

放射線遮蔽

原子力発電所では、放射線を適切に遮蔽するために、以下のような対策が取られています。

遮蔽材としては、ガンマ線に対しては鉛や鉄、コンクリートが、中性子に対しては水や水素を多く含むポリエチレンなどが効果的です。

4.4 核燃料サイクルと廃棄物処理

核燃料サイクル

核燃料サイクルとは、ウラン採掘から使用済み燃料の処理・処分までの一連の流れを指します。

  1. ウラン採掘・精製: 鉱石からウランを抽出し、八酸化三ウラン(U₃O₈)に精製
  2. 転換: 八酸化三ウランを六フッ化ウラン(UF₆)に変換
  3. 濃縮: 天然ウラン中のウラン235の割合を0.7%から3〜5%に濃縮
  4. 再転換・成形加工: 濃縮ウランを二酸化ウラン(UO₂)に変換し、燃料ペレットに成形
  5. 原子炉での使用: 3〜5年間炉内で燃焼
  6. 使用済み燃料の冷却保管: 発熱と放射能が減衰するまで水プールなどで保管
  7. 再処理または直接処分: 使用済み燃料から有用なウランとプルトニウムを回収(再処理)するか、そのまま処分(直接処分)するか

放射性廃棄物の区分と処理・処分

原子力発電所から発生する放射性廃棄物は、放射能レベルに応じて区分され、それぞれ適切な処理・処分が行われます。

原子力発電所の放射性廃棄物処理の流れ

  1. 発生源での分別
  2. 固体廃棄物の圧縮・焼却などによる減容
  3. 液体廃棄物の濃縮・固化
  4. 気体廃棄物のフィルタリング
  5. ドラム缶などへの封入・保管
  6. 最終処分施設への輸送・処分

5. 演習問題

問題1: 原子炉の種類

以下の記述のうち、沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)の特徴について、正しいものを選びなさい。

  1. BWRでは、原子炉内で発生した蒸気が直接タービンを回すのに対し、PWRでは蒸気発生器を介して二次系で発生した蒸気がタービンを回す。
  2. PWRでは、原子炉内で発生した蒸気が直接タービンを回すのに対し、BWRでは蒸気発生器を介して二次系で発生した蒸気がタービンを回す。
  3. BWRとPWRはともに、原子炉内で発生した蒸気が直接タービンを回す仕組みとなっている。
  4. BWRとPWRはともに、蒸気発生器を介して二次系で発生した蒸気がタービンを回す仕組みとなっている。

解答:a

BWR(沸騰水型原子炉)では、原子炉内で冷却材である水が沸騰して蒸気となり、その蒸気が直接タービンを回す仕組みになっています。一方、PWR(加圧水型原子炉)では、一次冷却系統の水は高圧(約150気圧)に保たれているため沸騰せず、熱は蒸気発生器を介して二次冷却系統に伝えられます。二次冷却系統で発生した蒸気がタービンを回します。

この違いにより、BWRはシンプルな構造である反面、放射化した水蒸気がタービン系に流れるため、タービン建屋も放射線管理区域となります。PWRは構造が複雑になる反面、一次系と二次系が分離されているため、タービン系統に放射性物質が混入しにくいという特徴があります。

問題2: 核分裂エネルギーの計算

2 kg のウラン燃料に 4.2 % 含まれるウラン 235 が核分裂し、0.1 % の質量欠損が生じたときに発生するエネルギーと同量のエネルギーを、重油の燃焼で得る場合に必要な重油の量 [kL] として、最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

  1. 100
  2. 150
  3. 200
  4. 250
  5. 300

解答:(3) 200

与えられた条件から計算していきます。

\begin{align*} \text{ウラン燃料中のウラン235の質量} &= 2 \text{ kg} \times 0.042 = 0.084 \text{ kg}\\[10pt] \end{align*} ウラン235が核分裂するとき、質量の0.1%が質量欠損となりエネルギーに変換されます。 \begin{align*} \text{質量欠損量} &= 0.084 \text{ kg} \times 0.001 = 8.4 \times 10^{-5} \text{ kg}\\[10pt] \end{align*} アインシュタインの質量エネルギー等価の法則(\(E = mc^2\))より、この質量欠損分がエネルギーに変換されます。 \begin{align*} \text{発生エネルギー} &= mc^2\\[10pt] &= 8.4 \times 10^{-5} \text{ kg} \times (3 \times 10^8 \text{ m/s})^2\\[10pt] &= 8.4 \times 10^{-5} \times 9 \times 10^{16} \text{ J}\\[10pt] &= 7.56 \times 10^{12} \text{ J} \end{align*} 重油の発熱量は約40 MJ/kgで、密度は約0.9 kg/Lです。これを使って、同量のエネルギーを得るために必要な重油の量を計算します。 \begin{align*} \text{重油の必要量 [kg]} &= \frac{7.56 \times 10^{12} \text{ J}}{40 \times 10^6 \text{ J/kg}}\\[10pt] &= 189,000 \text{ kg} \end{align*} 重油の密度で体積に換算します。 \begin{align*} \text{重油の必要量 [kL]} &= \frac{189,000 \text{ kg}}{0.9 \text{ kg/L}} \times \frac{1 \text{ kL}}{1000 \text{ L}}\\[10pt] &= 210 \text{ kL} \end{align*}

したがって、必要な重油の量は約210 kLとなり、選択肢の中では「200」が最も近いです。

この計算から、わずか84gのウラン235の核分裂で得られるエネルギーは、約200kLもの重油を燃焼させて得られるエネルギーに匹敵することがわかります。これは原子力発電のエネルギー密度の高さを示しています。

問題3: 安全対策

原子力発電所の安全対策に関する以下の記述のうち、誤っているものを選びなさい。

  1. 多重防護の考え方とは、異常の発生防止、異常の拡大防止、事故の影響緩和という三段階の安全確保策を重層的に施すことである。
  2. 非常用炉心冷却装置(ECCS)は、冷却材喪失事故(LOCA)時に炉心の冷却を確保するためのシステムである。
  3. 原子炉の制御棒は、通常時は電磁石で引き上げられており、電源喪失時には自動的に重力で炉心に落下する設計となっている。
  4. 原子力発電所の格納容器は、主に放射線を遮蔽する目的で設置されており、遮蔽能力を高めるため鉛が多く使用されている。

解答:d

格納容器の主な目的は、事故時に放射性物質が外部環境に漏れ出すことを防ぐことです(閉じ込め機能)。放射線の遮蔽は重要な機能の一つですが、主目的ではありません。また、格納容器の材料としては、鉄筋コンクリートや鋼板が使用されており、鉛が多く使用されているわけではありません。

正しい記述は以下の通りです:

  • a: 多重防護の基本的な考え方について正しく説明しています。
  • b: ECCSは冷却材喪失事故(LOCA)時に炉心を冷却するためのシステムで、高圧注入系、低圧注入系、蓄圧注入系などから構成されます。
  • c: 制御棒は通常時は引き上げられており、電源喪失時には自動的に落下するフェールセーフ設計になっています。

問題4: 放射線と遮蔽

放射線の種類とその遮蔽方法に関する以下の組み合わせのうち、最も適切なものを選びなさい。

  1. α線 - 鉛板
  2. β線 - 紙
  3. γ線 - コンクリートや鉛
  4. 中性子線 - アルミニウム板

解答:c

放射線の種類によって透過力が異なるため、適切な遮蔽材料も異なります。

  • α線(ヘリウム原子核): 透過力が非常に弱く、紙一枚や空気中数cm程度で遮蔽できます。鉛板は不要です。
  • β線(電子): 透過力はα線より強いですが、数mm程度のアルミニウム板で遮蔽可能です。紙では不十分です。
  • γ線(電磁波): 透過力が非常に強く、遮蔽には密度の高い鉛や厚いコンクリートが必要です。
  • 中性子線: 水素原子を多く含む物質(水、コンクリート、ポリエチレンなど)で効果的に遮蔽されます。アルミニウム板では効果が低いです。

したがって、γ線とコンクリートや鉛の組み合わせが最も適切です。

問題5: 原子力発電所の熱効率

原子力発電所の熱効率が33%であるとき、電気出力100万kWを得るためには何kWの熱出力が必要か。

解答:

熱効率 \(\eta\) は、電気出力 \(P_e\) を熱出力 \(P_t\) で割った値として定義されます。

\begin{align*} \eta &= \frac{P_e}{P_t}\\[10pt] 0.33 &= \frac{100 \text{ 万kW}}{P_t}\\[10pt] P_t &= \frac{100 \text{ 万kW}}{0.33}\\[10pt] &\approx 303 \text{ 万kW} \end{align*}

したがって、電気出力100万kWを得るためには、約303万kWの熱出力が必要です。残りの約203万kWは、主に冷却水を通じて環境中(海水や冷却塔など)に放出されます。

この熱効率は火力発電所(約40〜45%)と比べるとやや低いですが、これは原子炉の安全性確保のため、蒸気の温度・圧力が火力発電所より低く設定されているためです。

6. まとめ

原子力発電の重要ポイント

  1. 基本原理: 原子力発電は、ウラン235などの核分裂によって発生する熱を利用して蒸気を作り、タービンを回して発電する方式です。
  2. 原子炉の種類: 主な原子炉には、BWR(沸騰水型)とPWR(加圧水型)の2種類があり、それぞれ特徴が異なります。
  3. エネルギー変換: 核分裂→熱→蒸気→機械的エネルギー→電気という流れでエネルギー変換が行われ、熱効率は約30〜35%です。
  4. 安全対策: 多重防護の考え方に基づき、制御棒システム、非常用炉心冷却装置、格納容器など様々な安全対策が講じられています。
  5. 放射線管理: α線、β線、γ線、中性子線などの放射線は、それぞれ特性に応じた遮蔽方法が必要です。
  6. 核燃料サイクル: ウラン採掘から使用済み燃料の処理・処分まで、資源の有効利用と安全性の確保が重要です。

第三種電気主任技術者試験における重要性

第三種電気主任技術者試験の電力科目では、原子力発電に関する基礎的な知識や原理の理解が求められます。特に以下の点が重要です:

試験では、これらの知識を基に、原子力発電の特徴や安全対策、放射線管理などについて問われることが多いです。原子力発電は、火力発電や水力発電と並ぶ重要な発電方式として、基本的な理解が必要とされます。

次の学習単元への橋渡し

本単元で学んだ原子力発電の知識は、以下の単元とも関連しています:

次の学習単元では、これらの関連分野について理解を深めていきましょう。

学習のポイント

原子力発電を学ぶ上で重要なのは、基本原理の正確な理解と、安全性確保の考え方です。単に公式や数値を暗記するのではなく、なぜそのような構造や仕組みが採用されているのか、その背景にある物理的・工学的な理由を理解することが大切です。

また、実務面では、原子力発電所の運転・保守における電気主任技術者の役割を意識しながら学習を進めると、より深い理解につながります。