【第三種電気主任技術者試験】水力発電所の基礎知識と計算問題 - 合格対策学習ガイド

目次

1. イントロダクション

水力発電は、最も古くから利用されている再生可能エネルギー発電方式の一つであり、水の位置エネルギーを利用して電気エネルギーに変換するシステムです。自然の水循環を利用するため、環境負荷が低く、安定した電力供給が可能な発電方式として世界中で広く採用されています。

水力発電の特徴

  • 再生可能エネルギーである
  • 発電コストが安定している
  • 負荷変動に対する応答が速い
  • 長寿命(設備寿命が50年以上)
  • 揚水発電による電力貯蔵が可能

日常生活や産業での応用例

日本では全発電電力量の約8〜10%を水力発電が担っており、ベース電源として重要な役割を果たしています。また、揚水発電所は電力需要のピーク時に対応するための重要な調整電源となっています。さらに、災害時の非常用電源としての役割も担っており、地域の電力供給の安定化に貢献しています。

水力発電所 ダム式
イメージ図: 水力発電所 ダム式
水車や発電機
イメージ図: 水車や発電機の様子

第三種電気主任技術者試験における位置づけ

第三種電気主任技術者試験では、水力発電所に関連して「水力学の基礎」、「水車の種類と特性」、「水力発電所の構成と設備」、「出力計算」、「速度調定率」などが重要な出題分野となっています。特に、連続の定理やベルヌーイの定理などの水力学の基礎、水車の種類と特性、出力計算に関する問題は頻出です。

学習の進め方

本学習ページでは、まず水力発電の基本的な原理と設備について学び、次に水力学の基礎理論である連続の定理とベルヌーイの定理を理解します。その後、水車の種類や比速度について学習し、さらに水力発電の出力計算、揚水発電の仕組み、速度調定率について理解を深めていきます。最後に演習問題を通じて理解度を確認しましょう。

2. 基礎概念

2.1 水力発電の原理

水力発電は、高所から低所へ流れる水のエネルギーを利用して発電するシステムです。この過程は以下の3つのエネルギー変換過程に分けられます:

  1. 位置エネルギー → 運動エネルギー:高い場所の水が低い場所へ流れる際に、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されます。
  2. 運動エネルギー → 機械的エネルギー:水の運動エネルギーが水車を回転させ、機械的エネルギーに変換されます。
  3. 機械的エネルギー → 電気エネルギー:水車の回転が発電機を駆動し、電気エネルギーに変換されます。

この過程で利用される水の持つエネルギーは、主に以下の3つの形態のエネルギーの総和として表されます:

\[ E_{\text{total}} = E_{\text{位置}} + E_{\text{圧力}} + E_{\text{運動}} \]

これらのエネルギーの関係性は、後述するベルヌーイの定理によって説明されます。

2.2 設備・ダム

水力発電所は、水のエネルギーを効率的に利用するための様々な設備で構成されています。主要な設備について解説します。

2.2.1 ダム

ダムは水を貯め、必要な落差(有効落差)を確保するための構造物です。ダムの種類は構造や材料によって以下のように分類されます:

  • 重力式ダム:自重で水圧に抵抗する形式のダム。コンクリートで造られることが多く、安定性が高い。
  • アーチ式ダム:アーチ状の構造で水圧を両岸に分散させる形式。岩盤が強固な峡谷に適している。
  • ロックフィルダム:岩石を積み上げて造られるダム。大規模な地震にも強い特徴がある。
  • アースダム:土砂を盛り上げて造られるダム。建設コストが比較的安い。
重力式ダム
イメージ図: 重力式ダム
アーチ式ダム
イメージ図: アーチ式ダム
ロックフィル式ダム
イメージ図: ロックフィルダム
アースダム
イメージ図: アースダム

2.2.2 取水設備

取水設備は、山奥の上流域や貯水池・ダムから水を導くための施設で、主に以下の要素で構成されています。 :

  • 取水口:水を取り入れる入口
  • スクリーン:ゴミや流木などの異物を除去する格子状の設備
  • 制水ゲート:水の流入量を調整する扉
取水設備
イメージ図: 取水設備
取水設備
イメージ図: 取水設備
取水口堰堤
イメージ図: 取水口堰堤

2.2.3 導水路

導水路は取水設備から水車までの水の通り道です。地形条件によって以下のような形式があります:

  • 開水路:水面が大気に開放された水路
  • 水圧管路(ペンストック):圧力がかかる閉じた管路
  • トンネル:山を貫通する導水路

2.2.4 水車・発電機

水車は水の運動エネルギーを回転運動に変換する設備で、発電機と連結されています。水車の種類は後述します。

水車や発電機
イメージ図: 水車や発電機の様子

2.2.5 放水設備

水車で使用した水を下流に戻すための設備です。主に放水路と呼ばれる水路が使用されます。

水力発電所の分類

水力発電所は、主に以下の観点から分類されます:

  1. 落差による分類
    • 高落差発電所(有効落差200m以上)
    • 中落差発電所(有効落差50〜200m)
    • 低落差発電所(有効落差50m未満)
  2. 調整池の有無による分類
    • 流込み式:河川の水をそのまま利用
    • 調整池式:小規模な貯水池を持つ
    • 貯水池式:大規模なダムを持つ
    • 揚水式:上部と下部に貯水池を持つ
  3. 設置場所による分類
    • ダム式:ダムの直下に発電所を設置
    • 水路式:取水地点から離れた場所に発電所を設置
    • ダム水路式:上記の複合型

3. 数式と理論

3.1 連続の定理

連続の定理(連続の式)は、非圧縮性流体の流れにおいて、管路の断面積と流速の関係を表す基本的な法則です。

\[ Q = A_1 v_1 = A_2 v_2 = \text{一定} \]

ここで、

  • \( Q \):流量 [m³/s]
  • \( A_1, A_2 \):管路の断面積 [m²]
  • \( v_1, v_2 \):流速 [m/s]

この定理は質量保存の法則に基づいており、非圧縮性流体では流入する流体の質量と流出する流体の質量が等しいことを表しています。密度が一定であれば、流量(単位時間あたりの体積)も保存されます。

例題:連続の定理の適用

直径20 cmの管から直径10 cmの管に水が流れる場合、直径20 cmの管内の流速が2 m/sであるとき、直径10 cmの管内の流速を求めよ。

連続の定理より、\( A_1 v_1 = A_2 v_2 \) が成り立ちます。

断面積は円の面積なので、\( A = \pi r^2 = \pi (d/2)^2 \) となります。

直径20 cmの管の断面積:\( A_1 = \pi \times (0.2/2)^2 = \pi \times 0.01 = 0.0314 \, \text{m}^2 \)

直径10 cmの管の断面積:\( A_2 = \pi \times (0.1/2)^2 = \pi \times 0.0025 = 0.00785 \, \text{m}^2 \)

連続の定理から:

\begin{align*} A_1 v_1 &= A_2 v_2 \\ 0.0314 \times 2 &= 0.00785 \times v_2 \\ 0.0628 &= 0.00785 \times v_2 \\ v_2 &= \frac{0.0628}{0.00785} = 8 \, \text{m/s} \end{align*}

したがって、直径10 cmの管内の流速は8 m/sとなります。

実務上の注意点:管路断面が急激に変化すると、流れの乱れや損失が生じることがあります。実際の設計では、徐々に断面を変化させる「漸縮管」や「漸拡管」を使用することが多いです。

3.2 ベルヌーイの定理

ベルヌーイの定理は、流体の流れにおけるエネルギー保存の法則を表す重要な原理です。位置エネルギー、圧力エネルギー、運動エネルギーの総和が一定であることを示しています。

\[ \frac{P}{\rho g} + \frac{v^2}{2g} + z = \text{一定} \]

または、流れの2点間(点1と点2)で表すと:

\[ \frac{P_1}{\rho g} + \frac{v_1^2}{2g} + z_1 = \frac{P_2}{\rho g} + \frac{v_2^2}{2g} + z_2 \]

ここで、

  • \( P \):圧力 [Pa]
  • \( \rho \):流体の密度 [kg/m³]
  • \( g \):重力加速度 [m/s²]
  • \( v \):流速 [m/s]
  • \( z \):基準面からの高さ [m]

上記の式の各項はそれぞれ次の意味を持ちます:

  • \( \frac{P}{\rho g} \):圧力水頭 [m]
  • \( \frac{v^2}{2g} \):速度水頭 [m]
  • \( z \):位置水頭 [m]

水力発電では、この定理を用いて水の持つエネルギーの変換過程を理解し、有効な落差(有効落差)を算出します。

実際の流れにおけるエネルギー損失

実際の流れでは、流体の粘性による摩擦や、管路の曲がり、断面積の変化などによってエネルギー損失が生じます。これを考慮したベルヌーイの式は次のようになります:

\[ \frac{P_1}{\rho g} + \frac{v_1^2}{2g} + z_1 = \frac{P_2}{\rho g} + \frac{v_2^2}{2g} + z_2 + h_L \]

ここで、\( h_L \) は損失水頭 [m] を表します。

例題:ベルヌーイの定理の適用

水力発電所において、上部貯水池の水面標高が200 m、下部放水路の水面標高が50 mである。導水路入口での流速が1 m/s、水車入口での流速が20 m/sであるとき、導水路での損失水頭が10 mである場合、水車入口での圧力水頭を求めよ。ただし、上部貯水池では大気圧とする。

ベルヌーイの定理を用いて解きます。

点1:上部貯水池、点2:水車入口とします。

与えられた条件:

  • \( z_1 = 200 \, \text{m} \)
  • \( z_2 = 50 \, \text{m} \)(水車入口も放水路と同じ標高と仮定)
  • \( v_1 = 1 \, \text{m/s} \)
  • \( v_2 = 20 \, \text{m/s} \)
  • \( P_1 = 0 \, \text{Pa} \)(大気圧基準)
  • \( h_L = 10 \, \text{m} \)

ベルヌーイの式に損失水頭を加えたものを用いると:

\begin{align*} \frac{P_1}{\rho g} + \frac{v_1^2}{2g} + z_1 &= \frac{P_2}{\rho g} + \frac{v_2^2}{2g} + z_2 + h_L \\ 0 + \frac{1^2}{2 \times 9.8} + 200 &= \frac{P_2}{\rho g} + \frac{20^2}{2 \times 9.8} + 50 + 10 \\ 0.051 + 200 &= \frac{P_2}{\rho g} + 20.4 + 50 + 10 \\ 200.051 &= \frac{P_2}{\rho g} + 80.4 \\ \frac{P_2}{\rho g} &= 200.051 - 80.4 = 119.651 \, \text{m} \end{align*}

したがって、水車入口での圧力水頭は約119.7 mとなります。

水力発電における有効落差は、上部貯水池の水位と下部放水路の水位の差から、導水路の摩擦損失などのエネルギー損失を差し引いたものです。これは水車が利用できる実質的なエネルギーを表します。

3.3 水車の種類と特性

水車は水のエネルギーを回転エネルギーに変換する機械で、水力発電所の心臓部と言える存在です。水車は主に作用する水流の方向や原理によって分類されます。

3.3.1 水車の主要な分類

  1. 衝動水車(Impulse Turbine):水流の運動エネルギーを利用する水車
    • ペルトン水車:高落差(300m以上)に適し、バケット(杯)と呼ばれる部分に噴流を当てて回転させる
    • ターゴインパルス水車:中高落差(50〜250m)に適し、ペルトン水車の変形型
    • クロスフロー水車:低〜中落差(2〜40m)と広範囲の水量変動に対応可能
  2. 反動水車(Reaction Turbine):水の圧力エネルギーと運動エネルギーの両方を利用する水車
    • フランシス水車:中落差(40〜200m)に適し、最も広く利用されている
    • プロペラ水車:低落差(5〜80m)に適し、プロペラ状の回転翼を持つ
    • カプラン水車:プロペラ水車の改良型で、可動翼を持ち水量変動に対応できる
    • チューブラ水車(バルブ水車など):超低落差(30m以下)に適し、軸方向に水が流れる
ペルトン水車
イメージ図: ペルトン水車
フランシス水車
イメージ図: フランシス水車

3.3.2 各水車の特性比較

水車の種類 適正落差 [m] 流量変動への対応 効率特性 回転速度
ペルトン水車 300以上 広範囲(ノズル数調整) 部分負荷でも高効率 低速
フランシス水車 40〜200 中程度 定格付近で最高効率 中速
カプラン水車 5〜80 広範囲(翼角調整) 広い負荷範囲で高効率 高速
チューブラ水車 30以下 中程度 低落差で高効率 高速

水車の選定は、発電所の有効落差、流量条件、運用方法などを考慮して行われます。効率だけでなく、キャビテーション(気泡発生による損傷)、水撃現象、振動、制御性なども重要な検討要素です。

3.4 比速度

比速度(Specific Speed)は、水車の基本的な特性を表す無次元数で、水車の形状や性能を分類するための重要なパラメータです。

3.4.1 比速度の定義

比速度は次式で定義されます:

\[ N_s = \frac{N \sqrt{P}}{H^{5/4}} \]

ここで、

日本では以下の式も使用されます:

\[ N_s = \frac{N \sqrt{P}}{H^{5/4}} \times \frac{1}{\sqrt{g}} \]

ここで \( g \) は重力加速度 [m/s²] です。

比速度の単位は、単に [min⁻¹] と表記されることが多いですが、厳密には [min⁻¹ · kW^(1/2) · m^(-5/4)] となります。また、国際単位系(SI)や国によって定義が異なることがあるので注意が必要です。

3.4.2 比速度と水車の種類

比速度は水車の最適な形状を決定する要素であり、一般的に次のような関係があります:

水車の種類 比速度範囲 [min⁻¹]
ペルトン水車(1ノズル) 10〜30
ペルトン水車(複数ノズル) 30〜70
フランシス水車 60〜300
プロペラ・カプラン水車 250〜1000

比速度が低いほど低速回転で高落差に適した水車(ペルトン水車など)となり、比速度が高いほど高速回転で低落差に適した水車(カプラン水車など)となります。

例題:比速度の計算

有効落差100 m、水車出力5000 kW、回転速度600 min⁻¹の水力発電所における水車の比速度を求め、適切な水車の種類を判断せよ。

比速度の計算式に与えられた値を代入します:

\begin{align*} N_s &= \frac{N \sqrt{P}}{H^{5/4}} \\ &= \frac{600 \times \sqrt{5000}}{100^{5/4}} \\ &= \frac{600 \times 70.71}{100 \times 100^{1/4}} \\ &= \frac{42426}{100 \times 3.16} \\ &= \frac{42426}{316} \\ &\approx 134.3 \, \text{min}^{-1} \end{align*}

比速度が約134 min⁻¹であることから、この条件に適した水車はフランシス水車(比速度範囲:60〜300 min⁻¹)となります。

3.4.3 比速度と効率の関係

各種水車は特定の比速度範囲で最高効率を発揮します。水車選定の際には、想定される運転条件での効率特性も考慮する必要があります。一般的に、部分負荷運転が多い場合はペルトン水車、定格運転が多い場合はフランシス水車、流量変動が大きい場合はカプラン水車が選ばれる傾向があります。

4. 応用と実例

4.1 水力発電の出力計算

水力発電所の出力は、水の位置エネルギーと発電効率から計算することができます。

4.1.1 理論出力

水力発電の理論出力は次式で表されます:

\[ P_{\text{th}} = \rho \times g \times Q \times H \]

ここで、

  • \( P_{\text{th}} \):理論出力 [W]
  • \( \rho \):水の密度(約1000 kg/m³)
  • \( g \):重力加速度(約9.8 m/s²)
  • \( Q \):流量 [m³/s]
  • \( H \):有効落差 [m]

水の密度と重力加速度の積 \(\rho \times g\) は約9800 N/m³となります。これを用いると、次のように簡略化できます:

\[ P_{\text{th}} = 9.8 \times Q \times H \, \text{[kW]} \]

ただし、この式では\(Q\)の単位は[m³/s]、\(H\)の単位は[m]、\(P_{\text{th}}\)の単位は[kW]です。

4.1.2 実際の発電出力

実際の発電出力は、理論出力に全体の効率を乗じて求めます:

\[ P = \eta \times P_{\text{th}} = \eta \times 9.8 \times Q \times H \, \text{[kW]} \]

ここで、\( \eta \)は総合効率で、以下の各効率の積で表されます:

  • \( \eta_h \):水路効率(摩擦損失などを考慮)
  • \( \eta_t \):水車効率
  • \( \eta_g \):発電機効率
  • \( \eta_m \):機械効率(軸受損失などを考慮)
\[ \eta = \eta_h \times \eta_t \times \eta_g \times \eta_m \]

一般的な水力発電所の総合効率は約0.8〜0.9程度です。

例題:水力発電所の出力計算

有効落差80 m、流量25 m³/s、総合効率0.85の水力発電所の発電出力を求めよ。

発電出力の計算式を用いて:

\begin{align*} P &= \eta \times 9.8 \times Q \times H \\ &= 0.85 \times 9.8 \times 25 \times 80 \\ &= 0.85 \times 9.8 \times 2000 \\ &= 0.85 \times 19600 \\ &= 16660 \, \text{kW} = 16.66 \, \text{MW} \end{align*}

したがって、この水力発電所の発電出力は約16.66 MWとなります。

4.1.3 年間発電電力量

年間発電電力量は、発電出力と年間運転時間の積で計算されます:

\[ E = P \times T \times k \]

ここで、

  • \( E \):年間発電電力量 [kWh]
  • \( P \):発電出力 [kW]
  • \( T \):年間時間数(= 8760時間)
  • \( k \):設備利用率

設備利用率は、水力発電所の種類によって異なります:

  • 貯水池式・調整池式:約40〜60%
  • 流込み式:約30〜40%(季節や天候に左右される)
  • 揚水式:約15〜30%(ピーク対応に使用されるため低い)

4.2 揚水発電

揚水発電は、電力需要の少ない夜間に余剰電力を使って下部貯水池から上部貯水池へ水をポンプで汲み上げ(揚水)、電力需要の多い昼間にその水を利用して発電する方式です。

4.2.1 揚水発電の特徴

  • 電力貯蔵機能:現在実用化されている中で最も大規模な電力貯蔵システム
  • ピーク対応:電力需要のピーク時に迅速に対応可能
  • 系統安定化:周波数調整や電圧調整などの系統安定化に貢献
  • 再生可能エネルギーの導入支援:太陽光や風力などの変動電源の出力変動を吸収

4.2.2 揚水発電のサイクル効率

揚水発電のサイクル効率は、発電電力量とポンプ運転に必要な電力量の比で表されます:

\[ \eta_{\text{cycle}} = \frac{E_{\text{out}}}{E_{\text{in}}} \]

ここで、

  • \( \eta_{\text{cycle}} \):サイクル効率
  • \( E_{\text{out}} \):発電電力量 [kWh]
  • \( E_{\text{in}} \):揚水に使用する電力量 [kWh]

現代の揚水発電所のサイクル効率は約70〜80%程度です。これは、ポンプ運転時と発電時の双方で損失が生じるためです。

4.2.3 可変速揚水発電

従来の揚水発電は一定速度で運転され、ポンプ運転時の入力調整が困難でした。これに対し、可変速揚水発電は、回転速度を変えることで:

  • ポンプ運転時の入力調整が可能
  • 系統周波数変動に対する応答性の向上
  • 部分負荷時の効率向上

などの利点があります。

揚水発電は、電力を直接貯蔵するわけではなく、電力を水の位置エネルギーに変換して間接的に貯蔵するシステムです。そのため、エネルギー損失は避けられませんが、大規模な電力貯蔵が可能という利点があります。

4.3 速度調定率

速度調定率(Speed Regulation)は、水車発電機の負荷変動に対する回転速度の変動特性を表す指標です。

4.3.1 速度調定率の定義

速度調定率は次式で定義されます:

\[ \sigma = \frac{n_0 - n_f}{n_0} \times 100 \, [\%] \]

ここで、

  • \( \sigma \):速度調定率 [%]
  • \( n_0 \):無負荷時の回転速度 [min⁻¹]
  • \( n_f \):全負荷時の回転速度 [min⁻¹]

または、周波数を用いて表すと:

\[ \sigma = \frac{f_0 - f_f}{f_0} \times 100 \, [\%] \]

ここで、

  • \( f_0 \):無負荷時の周波数 [Hz]
  • \( f_f \):全負荷時の周波数 [Hz]

4.3.2 速度調定率と発電機の特性

速度調定率は、水車発電機のガバナーの特性を表す重要なパラメータです。通常、水力発電所の速度調定率は4〜6%程度に設定されます。

速度調定率が小さいほど、負荷変動に対する周波数変動が小さくなりますが、安定性が低下する傾向があります。逆に、速度調定率が大きいほど安定性は向上しますが、周波数変動は大きくなります。

4.3.3 並列運転と負荷分担

複数の発電機を並列運転する場合、各発電機の速度調定率は負荷分担に影響します。速度調定率(%)の逆数に比例して負荷が分担されます。

例題:速度調定率と周波数変化

速度調定率5%の水力発電機があり、定格周波数は50 Hzである。無負荷時の周波数を求め、また、負荷が定格の50%のときの周波数を求めよ。

速度調定率の定義式から:

\begin{align*} \sigma &= \frac{f_0 - f_f}{f_0} \times 100 \\[10pt] 5 &= \frac{f_0 - 50}{f_0} \times 100 \\[10pt] \frac{5}{100} &= \frac{f_0 - 50}{f_0} \\[10pt] 0.05 f_0 &= f_0 - 50 \\[10pt] 0.95 f_0 &= 50 \\[10pt] f_0 &= \frac{50}{0.95} \approx 52.63 \, \text{Hz} \end{align*}

したがって、無負荷時の周波数は約52.63 Hzです。

次に、負荷が定格の50%のときの周波数を求めます。負荷と周波数は線形関係にあるとすると:

\begin{align*} f &= f_0 - \frac{\text{負荷率} \times (f_0 - f_f)}{100} \\[10pt] &= 52.63 - \frac{50 \times (52.63 - 50)}{100} \\[10pt] &= 52.63 - \frac{50 \times 2.63}{100} \\[10pt] &= 52.63 - 1.315 \\[10pt] &= 51.32 \, \text{Hz} \end{align*}

したがって、負荷が定格の50%のときの周波数は約51.32 Hzとなります。

実際の電力系統では、周波数を一定に保つために、負荷の変動に応じて発電機の出力を調整する周波数制御が行われています。この制御において、速度調定率は重要なパラメータの一つとなります。

5. 演習問題

問題1:連続の定理

断面積1.2 m²の導水路があり、水の流速は3 m/sである。この導水路が断面積0.8 m²に縮小する部分がある。縮小部での水の流速を求めよ。

解答:

連続の定理より、\( A_1 v_1 = A_2 v_2 \) が成り立ちます。

ここで、\( A_1 = 1.2 \, \text{m}^2 \)、\( v_1 = 3 \, \text{m/s} \)、\( A_2 = 0.8 \, \text{m}^2 \)です。

\begin{align*} A_1 v_1 &= A_2 v_2 \\[10pt] 1.2 \times 3 &= 0.8 \times v_2 \\[10pt] 3.6 &= 0.8 \times v_2 \\[10pt] v_2 &= \frac{3.6}{0.8} = 4.5 \, \text{m/s} \end{align*}

したがって、縮小部での水の流速は4.5 m/sとなります。

問題2:ベルヌーイの定理

水力発電所において、取水口の水位は標高500 m、水車入口の標高は300 mである。取水口での水の流速は無視できるほど小さく、水車入口での流速は15 m/sである。導水路での損失水頭が25 mのとき、水車入口での圧力水頭を求めよ。

解答:

ベルヌーイの定理に損失水頭を加えた式を用います:

\begin{align*} \frac{P_1}{\rho g} + \frac{v_1^2}{2g} + z_1 &= \frac{P_2}{\rho g} + \frac{v_2^2}{2g} + z_2 + h_L \\ \end{align*}

ここで、取水口での流速は無視できるとして \( v_1 \approx 0 \)、取水口での圧力は大気圧(基準)として \( P_1 = 0 \) とします。

また、\( z_1 = 500 \, \text{m} \)、\( z_2 = 300 \, \text{m} \)、\( v_2 = 15 \, \text{m/s} \)、\( h_L = 25 \, \text{m} \) です。

\begin{align*} 0 + 0 + 500 &= \frac{P_2}{\rho g} + \frac{15^2}{2 \times 9.8} + 300 + 25 \\[10pt] 500 &= \frac{P_2}{\rho g} + \frac{225}{19.6} + 300 + 25 \\[10pt] 500 &= \frac{P_2}{\rho g} + 11.48 + 300 + 25 \\[10pt] 500 &= \frac{P_2}{\rho g} + 336.48 \\[10pt] \frac{P_2}{\rho g} &= 500 - 336.48 = 163.52 \, \text{m} \end{align*}

したがって、水車入口での圧力水頭は約163.5 mとなります。

問題3:水力発電の出力

有効落差120 m、流量18 m³/s、総合効率0.88の水力発電所がある。この発電所の出力を求めよ。また、年間設備利用率が55%のとき、年間発電電力量を求めよ。

解答:

水力発電所の出力は次式で計算されます:

\begin{align*} P &= \eta \times 9.8 \times Q \times H \\[10pt] &= 0.88 \times 9.8 \times 18 \times 120 \\[10pt] &= 0.88 \times 9.8 \times 2160 \\[10pt] &= 0.88 \times 21168 \\[10pt] &= 18627.84 \, \text{kW} \approx 18.63 \, \text{MW} \end{align*}

年間発電電力量は次式で計算されます:

\begin{align*} E &= P \times T \times k \\[10pt] &= 18627.84 \times 8760 \times 0.55 \\[10pt] &= 18627.84 \times 4818 \\[10pt] &= 89,748,914 \, \text{kWh} \approx 89.75 \, \text{GWh} \end{align*}

したがって、この発電所の出力は約18.63 MW、年間発電電力量は約89.75 GWhとなります。

問題4:比速度と水車の選定

有効落差150 m、水車出力20,000 kW、回転速度500 min⁻¹の水力発電所がある。この発電所の比速度を求め、最適な水車の種類を選定せよ。

解答:

比速度は次式で計算されます:

\begin{align*} N_s &= \frac{N \sqrt{P}}{H^{5/4}} \\[10pt] &= \frac{500 \times \sqrt{20000}}{150^{5/4}} \\[10pt] &= \frac{500 \times 141.4}{150 \times 150^{1/4}} \\[10pt] &= \frac{70700}{150 \times 3.66} \\[10pt] &= \frac{70700}{549} \\[10pt] &\approx 128.8 \, \text{min}^{-1} \end{align*}

比速度が約128.8 min⁻¹であることから、この条件に適した水車はフランシス水車(比速度範囲:60〜300 min⁻¹)となります。

問題5:速度調定率

ある水力発電機の速度調定率は4%である。無負荷時の周波数が60.8 Hzのとき、全負荷時の周波数と、負荷が定格の70%のときの周波数を求めよ。

解答:

速度調定率の定義式から全負荷時の周波数を求めます:

\begin{align*} \sigma &= \frac{f_0 - f_f}{f_0} \times 100 \\[10pt] 4 &= \frac{60.8 - f_f}{60.8} \times 100 \\[10pt] \frac{4}{100} &= \frac{60.8 - f_f}{60.8} \\[10pt] 0.04 \times 60.8 &= 60.8 - f_f \\[10pt] 2.432 &= 60.8 - f_f \\[10pt] f_f &= 60.8 - 2.432 = 58.368 \, \text{Hz} \end{align*}

したがって、全負荷時の周波数は約58.37 Hzです。

次に、負荷が定格の70%のときの周波数を求めます:

\begin{align*} f &= f_0 - \frac{\text{負荷率} \times (f_0 - f_f)}{100} \\[10pt] &= 60.8 - \frac{70 \times (60.8 - 58.368)}{100} \\[10pt] &= 60.8 - \frac{70 \times 2.432}{100} \\[10pt] &= 60.8 - 1.7024 \\[10pt] &= 59.0976 \, \text{Hz} \approx 59.10 \, \text{Hz} \end{align*}

したがって、負荷が定格の70%のときの周波数は約59.10 Hzとなります。

問題6:揚水発電のサイクル効率

ある揚水発電所では、上部貯水池に水を汲み上げるためのポンプ運転時に100,000 kWhの電力を消費し、その水を使って80,000 kWhの電力を発電することができる。この揚水発電所のサイクル効率を求めよ。

解答:

揚水発電のサイクル効率は次式で計算されます:

\begin{align*} \eta_{\text{cycle}} &= \frac{E_{\text{out}}}{E_{\text{in}}} \\[10pt] &= \frac{80,000}{100,000} \\[10pt] &= 0.8 = 80\% \end{align*}

したがって、この揚水発電所のサイクル効率は80%となります。これは現代の揚水発電所としては標準的な効率です。

6. まとめ

重要ポイントの要約

設備・ダム

  • 水力発電所は、取水設備、導水路、水車・発電機、放水設備などから構成される
  • ダムの種類には重力式、アーチ式、ロックフィル、アースダムなどがある
  • 水力発電所は落差、調整池の有無、設置場所などによって分類される

連続の定理・ベルヌーイの定理

  • 連続の定理:\( Q = A_1 v_1 = A_2 v_2 = \text{一定} \)、流量は断面積と流速の積で一定
  • ベルヌーイの定理:\( \frac{P}{\rho g} + \frac{v^2}{2g} + z = \text{一定} \)、流体のエネルギー保存則
  • 実際の流れでは損失水頭 \( h_L \) を考慮する必要がある

水車の種類・比速度

  • 水車は主に衝動水車(ペルトン水車など)と反動水車(フランシス水車、カプラン水車など)に分類される
  • 比速度 \( N_s = \frac{N \sqrt{P}}{H^{5/4}} \) は水車の選定に重要なパラメータ
  • 比速度の範囲:ペルトン水車(10〜70)、フランシス水車(60〜300)、カプラン水車(250〜1000)

水力発電の出力・揚水発電

  • 水力発電の出力:\( P = \eta \times 9.8 \times Q \times H \, \text{[kW]} \)
  • 揚水発電は電力貯蔵機能を持ち、電力需給調整に重要な役割を果たす
  • 揚水発電のサイクル効率は約70〜80%程度

速度調定率

  • 速度調定率:\( \sigma = \frac{n_0 - n_f}{n_0} \times 100 \, [\%] \)
  • 水力発電所の通常の速度調定率は4〜6%程度
  • 速度調定率は負荷変動に対する周波数変動特性を表し、並列運転時の負荷分担に影響する

次の学習単元への橋渡し

水力発電の基本的な知識を習得したら、次のステップとして以下の学習が推奨されます:

第三種電気主任技術者試験対策

水力発電に関する問題は、主に「電力」の科目で出題されます。水力学の基礎や水車の特性、発電設備や出力計算が中心となります。基本的な計算問題をしっかり解けるようにしておきましょう。